本書は、純粋な意味での研究書ではありませんが、エッセイ集でもありません。極めてあいまいな性格の書物ですが、近年私が書き飛ばしてきた論考を集めて、補綴作業を行ったものです。
近年、若者の就労だけではなく、そのライフコース自体が問題になっています。若者のライフコースの典型的なイメージといえば、先行きの全く見えない「道なき道」を行く人々というイメージでしょう。昨年末にあった「派遣切り」など、もちろん好ましくない状況には違いありません。しかし、起こりえることではあったわけです。とはいえ、現実に、あれほど大量の派遣切りが一斉に行われるという状況をどれほどの人が想定していたでしょうか。先の読めない不安感、不安定感を多くの若者が持っているように思います。
さて、現在40歳以上の世代、つまりバブル崩壊前に就職した世代は、逆に「誰かによって敷かれたレールの上」をひたすら走る世代であるかのように言われることが多かったように思います。第1章で言及するように、日本のパンクロッカーたちはその点を攻撃したわけです。誰かの価値観にのっとって敷かれたレールの上をひたすら歩むだけでいいのか、お前たち本当に自分のやりたいことはないのか、というわけです。レールを外れる若者も確かにおりました。あえて不安定な状況に自らを追い込む若者も確かにおりました。しかし、それはあくまでも少数で、多くは敷かれたレールの上を走っていたのではないでしょうか。
問題は今、その敷かれたレールが取っ払われようとしていることです。年功序列、終身雇用といった制度が急速に改変され始め、また人々の雇用形態も急速に変わり始めています。でも、50歳以上の世代にとっては、何とか旧制度の残滓がある間にレールを走って「逃げ切る」こともできるでしょう。しかし先の長い40歳代の人間には、とても逃げ切るだけの時間的ゆとりはありません。走ったあとから次々とレールが取っ払われていく。そして順調にレールの上を走ってきたのに、ふと足元を見るとレールがなくなっているということになりかねない。いや、確実になる。こういう状況にあると思います。
このような観点から本書では高等教育システムを中心に共通一次世代の時期の教育が現在どのように変貌し、どのような問題を生み出しているのか、あるいは良くなった面はあるのかについて考察しています。
本書について率直なご意見、ご批判をお寄せいただければ幸いです。
大学教育推進機構/大学院国際協力研究科教授?山内乾史