ドイツを始めとするヨーロッパ諸国の原子力政策史を分析した総合的著作。日本におけるエネルギー政策への参照基準を提示する。
「3.11」以後、日本でも左右を問わず、脱原発を求める声が高まってきた。その多くが選挙や国民投票を経て、脱原発に転換したドイツやイタリアをモデルとしているようだ。しかしヨーロッパでは、ドイツ、イタリア、デンマーク、オーストリア、スイスなどが脱原発に踏み切る一方、イギリスやフランスなどは相変わらず原発に固執しているのが現状である。その背景には何があるのか。選択を分けたのは何か。ドイツを始めとするヨーロッパ諸国の原子力政策史を分析した総合的著作が、このたび出版された。
本書は2部構成を採っている。第1部では、ドイツの反核運動と原子力政策が扱われる。第2部は、ヨーロッパ諸国の原子力政策史の分析である。筆者は共著者として、第1部第3章の「反原発運動から緑の党へ—ハンブルクを例に—」を執筆した。具体的にはドイツのハンブルクという一地域を例に、反原発運動から緑の党という環境政党が誕生する過程を、文書や関係者へのインタビューを基に、丹念に追っている。
ドイツなど一国の原子力政策や脱原発の過程に焦点を当てた本は少なくないが、ヨーロッパ各国の原子力政策を概観できる本は、本書が初めてであろう。とりわけデンマーク、オーストリア、チェコ、スロヴァキア、スイスといった、これまでほとんど日本には紹介されてこなかったヨーロッパ小国の原子力政策を、本書を通じて知ることが出来る意義は大きい。なぜ日本では脱原発への動きが遅々として進まないのか。ヨーロッパ諸国に学べる点はないのか。そうした疑問を抱いている読者に、ぜひ本書をすすめたい。
大学教育推進機構講師?