本書は、編者が研究代表者となり、文部科学省科学研究費補助金の助成を受けて行ってきた基盤研究 (C)(平成22年度~平成24年度)「学力と就労の関係性に関する実証的研究—『相対的な学力』の概念を鍵にして—」(課題番号22530917) の第1段階でのまとめである。第2段階(最終段階)のまとめは平成24年度末に公刊する予定である。なお、この基盤研究の研究分担者としては原教授、米谷教授のお二人が名を連ねている。しかし他のメンバーも様々な形で関わりの深い仲間である。
この基盤研究 (C) の課題には「学力」と「就労」という二つのキーワードがあり、本書では主として大学生の学力および高等教育の質保証に重点を置いて検討した論稿を集録した。平成24年度末に公刊する続編も同様である。就労については、これまでに、われわれ研究代表者並びに共同研究者はいくつかの著作を公刊してきた。山内乾史編『教育から職業へのトランジション—若者の就労と進路職業選択の教育社会学—』(東信堂、2008年)、山内乾史?原清治編『学歴と就労の比較教育社会学—教育から職業へのトランジションⅡ—』(学文社、2010年) はその一端である。そういった就労に関わる研究を踏まえて本書および続編の学力研究があるということをご理解いただきたい。
そもそも大学生にとって学力とは何か。これまで大学に入るまでに身につけるべき学力が論じられることはあっても、大学に入ってから身につけるべき学力についてはあまり論じられてこなかった。大学は新たに学力を身につける場ではなく学問をする場というわけである。しかしここ数年、リメディアル教育、初年次教育、導入教育など、大学入学後に身につけるべき学力やスキルの内容を明示し展開される試みが多くの大学で見られる。この新たな、大学生の学力をめぐる状況は、今全体としてどのようになっているのか、そしてどのような教育の試みが展開されているのか、今後どうなっていくのかについて考えてみようというのが科学研究費補助金課題のねらいであった。
本書の第1章から第5章は主として日本の大学生、短大生の学習状況と学力について、第6章から第8章は主として海外の高等教育の質保証システムについて論じたものである。以上、本書を簡単に概観したが、われわれの研究はまだはじまったばかりであり、さらに議論を深めるとともに収斂させていかねばならない。今回本書に収められた8章は些かまとまりを欠く面もあるが、この点については続刊においてきっちりと総括することとしたい。なお、本書には論稿を寄せられなかったが、乾美紀 (兵庫県立大学客員研究員)、加藤善子 (信州大学高等教育研究センター准教授) 両氏もメンバーであり、続編には論稿を寄せていただけることになっている。
続編に向けて一人でも多くの方にお読みいただき、ご意見、ご批判をいただければ幸いである。
大学教育推進機構/大学院国際協力研究科教授?山内乾史