近世米市場の形成と展開

近世米市場の形成と展開

幕府司法と堂島米会所の発展

日次データによる大坂米相場の復元により、幕府の米切手政策を軸に世界的先駆をなす市場の成立を描く。その効率的価格形成の具体的様相とダイナミックな地方への波及を解明。

  • 著者
  • 高槻泰郎
  • 出版年月
  • 2012年02月
  • ISBN
  • 9784815806927

天下ノ智ヲアツメ血液ヲ通ハシ大成スルモノハ大阪ノ米相場ナリ——。19世紀初頭に山片蟠桃が「夢ノ代」で謳った大坂米市場は、はたして天下の智を的確に価格へと反映する市場であったと言えるのであろうか。もしそうであったとすれば、なぜそれは可能となったのか。この素朴な問いに、経済史学の立場から挑んだのが本書である。

結論を言えば、本書は山片蟠桃の観察を支持している。近世中後期の大坂米市場は、過去の値動きを観察することによって超過収益を獲得することができない市場であったという意味で情報効率的な市場であり、その価格は飛脚や旗振り通信によって、隣接する大津米市場へ一刻を争って速報されていた。かかる市場の働きを支えたのは、現代のトレーダーにあたる米仲買たちが結成した株仲間と、米市場における契約履行を保証し、市場の歪みを矯正するべく種々の政策を打ち出した江戸幕府とが構成した重層的な取引秩序であった。

山片蟠桃など、江戸時代における在野の経世家が、高度に洗練された経済的見識を持っていたことは、これまでもよく知られていたが、江戸幕府の役人については、ともすれば市場に関して無知であり、商人に対して居丈高な姿が連想されがちである。18世紀初頭まではそうした姿勢が垣間見えたことは確かであるが、本書が紙幅を割いて紹介した18世紀中葉に活躍した幕府役人たちは、その対極に位置している。対話を繰り返し、市場参加者の理解と協力をうまくとりつけながら、政策を遂行する幕府役人の姿に、これまでとは少し違った江戸時代像を見出して頂ければ幸いである。

経済経営研究所 講師?高槻泰郎


目次

  • 序章 幕藩体制下における米市場
  • 第Ⅰ部 領主米市場の形成
    • 第1章 幕府直轄米市場の成立
    • 第2章 大坂米市場の制度的基礎
  • 第Ⅱ部 幕藩領主と大坂米市場
    • 第3章 米価統制策の再検討
    • 第4章 米切手統制策の再検討
    • 第5章 大坂米市場と大名財政
  • 第Ⅲ部 近世社会と相場情報
    • 第6章 大坂米市場の効率性
    • 第7章 幕府直轄米市場の連動と統合
  • 終章 近世社会における市場の論理