「犬」「鶏」「蝶」といった動植物にはじまり、「髪」「鏡」「扉」にいたるまで、美術に登場する様々なモチーフを通して美術作品を読み解いたもの。美術を鑑賞するとき、単に作者やタイトル、あるいは色や形からだけでなく、個々のモチーフに注目し、その意味を考えてみること、あるいは共通するモチーフによって作品を横断的に見ることは、きわめて意味深く、興味がつきない。西洋の古典美術に限らず、東洋美術でも現代美術においても、美術は伝統的な寓意や象徴に満ちている。本書でとりあげたモチーフはほんの一部にすぎず、体系的というより、私の好みに偏ってしまったかもしれない。なじみのモチーフが増えてくれば美術の楽しみがさらに広がるであろう。幸い売れ行きも好調であり、発売後すぐに増刷が決まった。文庫本ながら、ほとんどの作品はカラーで掲載し、眺めるだけで楽しいものとなっているため、手にとってご覧いただければ幸いである。
必威体育研究科教授 宮下規久朗