ユーモアと風刺の町としても知られるブルガリアのガブロボの人々が、厳しい生活の中で培ってきた倹約ぶりや金を生み出す知恵を、短いジョークでユニークに綴る。
「ガブロボ滑稽談」は、ブルガリアを東西に走るバルカン山脈の麓に広がるガブロボ地方に住む人々の間で語り継がれてきた「笑いの小話」を編集したものです。ガブロボ人が生み出した滑稽談には、「自分たちが笑いの種になるのが大好き」という彼らのもつ希有な特徴が溢れています。
ガブロボの祖先は、木と石で作った粗末な家に住み、熟練した手で木製、金属製の椀や家具、馬車、機織り道具を作り、オットマン(トルコ)帝国時代のブルガリアからワラキア、モルダビア、ロシア、オーストリー?ハンガリーにまで出かけて製品を売り歩いた冒険的で起業家精神に溢れた人々でした。ガブロボの民間伝承であるAnecdotesには、過酷な生活環境の中で、「胃袋が悲鳴を上げ、眼球が飛び出す」まで働かざるを得なかった人々の、経済観念に裏付けられた機智と創意工夫に満ちた節約と倹約のユーモアが詰まっています。そこには、エスニック?ジョークに見られるような「他者を笑う」趣は全くありません。むしろ「自分を笑いの種」にして、苦しくても笑うガブロボ人の強い精神が漲っています。江戸落語の「熊さん、八つぁん」に相通じるものがありそうです。
この本を手に取って読んで頂いた皆様が、ブルガリアには、有名なヨーグルトとバラ香水に加えて、こんなにも愉快で知恵ある人々が生み出したユーモアの文化があることを知ってくだされば、そうして、いつかブルガリアに旅行されてガブロボを訪ねてくだされば、ブルガリアがすきな人間の一人として、私は嬉しく思います。
農学研究科?名誉教授 中村千春