2010年10月に名古屋で開催された「いきもの世界会議」の重要な成果の1つが、新しい環境責任条約である「責任と救済に関する名古屋?クアラルンプール補足議定書」の採択でした。本書は、この新条約の交渉に日本政府代表団の一員として参画した本学国際協力研究科の柴田明穂教授(国際法)が編著者となって刊行した国際法の学術書です。(財)神戸大学六甲台後援会の学術成果公開助成を受けて刊行されました。
名古屋?クアラルンプール補足議定書は、生物多様性条約の下で成立した遺伝子組み換え生物(GMO)の安全な利用を促すバイオセフティーに関するカルタヘナ議定書の下で交渉?採択された新条約であり、GMOが生物多様性に損害を与えた場合に、関係事業者が有効な被害拡大防止措置や環境修復措置をとることを求めています。日本にも大量のGMダイズやGMナタネが輸入されていますが、未だこれらGMOが環境に損害を与えた事例はありません。しかし、この条約は、今後増え続けるであろうGMOの生産及び輸出入を見越して、万が一の事態に備えるものです。
本書では、補足議定書が世界規模の条約としては初めて採用した責任(ライアビリティ)に関するいわゆる「行政的アプローチ」につき、その起源、交渉経緯、意義や課題につき、研究者に加えて交渉にあたった共同議長や交渉官らが考察しています。民事責任制度にはならなかった理由も考察されています。以上のような国際法的な分析に加えて、本書は、環境条約をめぐる白熱した交渉プロセスにも光を当て、いかなる国がどういう理由でどういった立場を主張し、それがどういう形で条約に反映されることになったか、国際交渉学の観点からも面白い情報を提供しています。そのプロセスでは、日本も大変重要な役割を担ったことが、本書を読まれればわかると思います。
国際協力研究科?教授 柴田明穂