異なる民族は相互に戦い合う運命にあるのだろうか。民族紛争を解決する、あるいは未然に防止することは不可能なのだろうか。本書はこの問いに挑んでいる。
対象として取りあげた西欧は、アフリカ、アジア、ロシア?東欧の諸地域などと比べると民族紛争の発生という点では極めて低頻度であるが、数多くの民族が隣り合い、混じり合いながら共存している点では、これら諸地域と何ら変わりはない。
では逆に、西欧では、なぜ安定が可能となり、暴力的な紛争の発生が未然に防がれているのであろうか。西欧政治に特徴的な要素として論及される民主主義や人権、国内政治や国際政治の分析に欠かせなくなったガヴァナンス(governance)、さらには現代社会を特徴づけるグローバリゼーションなどを手がかりに検討し、民族紛争を解消ないし予防する「共生の政治」とはどのような政治なのかを探究する。
初版(2008年4月刊行)は、2008年度の「村尾育英会学術奨励賞」に選ばれた。この増補版では、全体的なアップデートを行った上、フランスでの地域少数言語の地位向上を図る2008年の憲法改正をめぐる政治過程分析の章を加えた。
国際文化学研究科?教授 坂井一成