日韓間の歴史認識問題を巡る状況の悪化については、これまでも様々な理由が指摘されてきた。しかしながら、そこでは韓国における「反日教育」の存在や、日本社会の「右傾化」といった要素の重要性が漠然と指摘されるのみであり、それが具体的にどのような役割を果たしているのかまでは、分析されてこなかった。例えば、韓国の反日教育は独立以後、一貫して行われてきたものである。だからこそ、韓国内の反日感情の「変化」はその教育内容の「変化」によっては説明され得ない。日本の右傾化についても同様である。韓国では日本で何かしらの歴史認識問題に関る議論が起こるたびにそれが日本社会の右傾化の結果だと説明されてきた。しかし、ここで考えて欲しい。従軍慰安婦問題が顕在化した1990年代中盤は、宮沢政権から細川政権、羽田政権、更には村山政権と続く、戦後政治において最もリベラルな政権が誕生した時代だった。如何なる基準においても、1960年代の佐藤政権や80年代の中曽根政権よりも、宮沢政権や村山政権の対韓国政策が「右傾化」しており、この結果として従軍慰安婦問題が起こったとはいえない筈である。
重要なのは日韓間の歴史認識問題を分析する為のきちんとした手法を持ち、それにより「歴史認識問題の歴史」を再点検する事である。問題の原因がわからなければ解決方法や対処方法が見つかるはずもなく、原因を見つける為にはそれをきちんと分析する事が必要である。
本書はこのような観点から書かれている。多くの読者に紐解いていただく事を期待したい。
国際協力研究科?教授 木村幹