明治期、国家の近代化に乗り出した日本において、まずなすべきことは近代的なインフラの建設であった。財政難の折、政府によるインフラ整備が遅々とするなか、民間においても鉄道や港湾などのインフラ?ビジネスに参入する動きがみられたが、いわゆる大手ゼネコンや建設コンサル不在の状況下、事業者にとって最大の問題が、そのビジネスの基盤となるインフラ(本書ではこれを“ビジネス?インフラ”と呼ぶ)の建設であったといってよい。
本書は、こうした民間のビジネス?インフラ建設を通して、日本の近代化過程のダイナミズムを探る試みである。話の展開軸として注目した白石直治は、当時希少な日本人最上級の土木工学者/技術者でありながら、官位栄達の途を捨てて民間事業に関わり続け、その意味で異色の存在でもあった。ここで考察する白石主導のビジネス?インフラは、関西鉄道(明治期五大私鉄の一角)、若松築港(筑豊炭の最大の積出港)、三菱長崎?神戸造船所の船渠、猪苗代水力電気(画期的な長距離高圧送電を実現)など、重要なインフラ整備分野をカバーしており、当時の民間エネルギーの発露や方向性を示すとともに、人々が社会?経済発展へのさまざまなハードルを乗り越えていった経過の証言でもある。
経済学研究科?准教授 前田裕子