本書は、『産経新聞』夕刊に毎月連載している「欲望の美術史」の約2年間分の記事を、それぞれ大幅に加筆してまとめたものである。2013年6月以前の2年間の連載分は、同じ光文社新書の『欲望の美術史』にまとめてあるので、併せて読んでいただければ幸いである。
本書はその続編に当たり、似たようなトピックが並んでいるが、私にとっては前著『欲望の美術史』とは少しスタンスがちがう。それは、エピローグに書いたとおりで、私情を表出してしまっている点である。私は2年前の5月、本学経営学部を卒業したばかりの一人娘の麻耶を病で喪い、それ以来、美術史にも仕事にもすっかり熱意を失ってしまった。虚脱状態のうちに、時事的なテーマを中心に、失いつつある美術への興味をかきたてつつ細々と書き綴ったものを集めたものである。「欲望」というタイトルはもはや適当ではないが、まだ美術にはかろうじて誘惑する力があると思い、このタイトルとなった。
本書最後に掲載した「白い蝶」と「エピローグ」には、私の心情や娘への思いを吐露しており、神戸森北町の墓地に建てた娘の墓の写真も載せていただいた。私の20冊目の単著となる本書は、こうして娘に捧げるものとなった。
研究成果を披瀝する学問的なものでも鋭利な美術評論でもなく、私の個人的な嗜好や感慨による美術漫談にすぎないが、オールカラーで図版はいずれも美麗なので、手にとっていただければ幸いである。
必威体育研究科?教授 宮下規久朗