本書は、我が国の優良?成長企業8社(インテリジェンス、参天製薬、マツダほか)の事例分析をもとに「新しい日本型人事システム」の仕組みと戦略を解明した書物である。
1980年代頃まで世界中から熱い視線を向けられた「日本的経営」はすっかり影を潜め、完全に過去の遺産となってしまった感がある。いわゆる「日本的経営」が何を含意するかについての解釈には諸説があるが、最も一般的には、その根幹には、終身雇用や年功序列賃金、職務範囲の広いチーム作業など、日本企業でとられてきた独自の組織や「人のマネジメント」の慣行があり、他国の企業が容易に模倣し得ないそれら各種の特異性が日本企業の高業績を支える源泉となってきたと理解されることが多い。
しかし、周知のように、1990年代以降、長引く平成不況やグローバリゼーションの急速な進展に伴い、それまで日本企業の得意技とされてきた人事労務施策のほころびや人的資源の疲弊が目立つようになってきた。今日に至るまで、各社ともさまざまな対処を続けてきているが、こうした人事労務管理?人的資源管理の側面における日本企業の対応の実態が学術的に明らかにされている例は意外に少なく、その具体的内実の詳細は未だベールに包まれている感が強い。こうした現状を踏まえ、我が国の優良?成長企業8社を対象として、その「人のマネジメント」のビビッドな実態を、コンテキストにできる限り忠実に明らかにしようとしたのが本書に収録したケーススタディである。
経営学研究科?教授 上林憲雄