“壊れないねじ締結体”を設計するために必要な知識を、材料力学、伝熱工学などの初歩的な知識で理解できるよう平易に解説。
ねじはさまざまな機械構造物、機器類の締結にもっとも広く使用されている機械要素である。その一方で、破壊?破損事故の多くはねじ部から発生しており、1本のねじの破断が大事故につながることがある。これらの事故やトラブルのほとんどは、ねじを目標軸力で締め付けて、使用状態における軸力変化が設計段階で予測した値以下であれば防ぐことができる。そのためには締結部の形状と材料、使用状態に応じたねじの締め付け方法を選択しなければならない。また、ねじの破壊?破損を防止するためには、ねじのゆるみ現象、疲労強度の指標となるねじ谷底の応力振幅とその軽減方法に関する知識が不可欠である。
従来のねじに関する研究は、実験と材料力学、さらには高度な弾性学を組み合わせるという手法が中心であった。コンピュータ解析による本格的なねじの研究は1960年代後半から始まり、CAEが一般化した1990年代に入って実際の設計に応用できるレベルに到達したといえる。しかしながら、複雑な接触問題であるねじの力学特性は、昨今の高度な汎用構造解析用ソフトウエアを使用しても解明が困難なケースが多い。
本書は、ねじ締結部の設計を担当する技術者、現場の締め付け作業を統括する技術者、ねじ部品の製造に携わる技術者まで、さまざまなかたちでねじに関わる技術者を対象として、従来の専門書では扱われていなかった現象も含めて、“壊れないねじ締結体”を設計するために必要な知識をまとめたものである。ねじ谷底に沿った応力や応力振幅の分布、多数のボルトを逐次締め付けたときに発生するボルト軸力のばらつき、接触熱抵抗を考慮したねじ締結体の詳細な熱?力学挙動など、高度なコンピュータ解析によってはじめて明らかにされた現象から、締め付け方法の選択、ゆるみの防止策など、通常の設計業務や現場の締め付け作業でしばしば直面する問題について可能な限り平易に解説している。
ねじの寸法?形状、使用目的、作用する荷重の形態は千差万別である。そのために、設計の段階で個々の締結部に応じてわずかな工夫を施すことにより、大幅に強度を改善できることがある。本書ではその点を考慮して、詳細な解析を実施することなしに、ねじ固有の現象を材料力学、伝熱工学などの初歩的な知識で理解できるように配慮している。また技術者にとって、ねじ締結部の力学特性に関連するさまざまな因子の概略の数値を知っておくことは重要である。各章に設けた<数値で学ぶ>では、読者が理解を深めるために重要と思われる具体的な数値を紹介している。
海事科学研究科?教授 福岡 俊道