水文学は、地球上の水循環を中心概念とし、とくに陸域における降水、蒸発散、浸入、流出などの水循環の全過程を取り扱う学問分野である。本書は、河川の計画?管理(治水や利水)、灌漑排水、水資源の開発?管理、水環境の保全?管理などに役立つ水文学の基礎として、流域を含む「地域」の水循環について学習する講義のための教科書?参考書であり、大学の専門課程の学生もしくは大学院修士課程の初学年生が利用することを前提としている。
本書の執筆に際しては、土木、農業土木、砂防などの分野に就職する大学生、大学院生を対象として、水文学とこれらの分野の仕事で直ちに役に立つ応用水文学の重要な知見を詳述することを念頭に置いた。このため本書は、水循環と水収支に始まり、水循環過程の構成要素に関する説明と、応用水文学の重要課題である流出解析と水文統計解析に関する説明、巻末付録から構成され、水量に関する議論を中心としたオーソドックスな教科書になっている。とくに各章の例題と演習問題を充実させることで実践力?応用力を養うことを目指しており、例題、演習問題とそれらの詳しい解答は、本書の特徴の一つである。
大学、大学院における水文学の教科書としてだけでなく、土木、農業土木、砂防などの分野で活躍しておられる技術者が水文現象の観測手法、解析手法を理解する際にも本書が役立つことを期待している。
農学研究科?教授 田中丸治哉