本書は、地方創生の意義や本質を明確化し、地方創生に挑む地域金融機関のとるべき戦略や進むべき方向性を提示しています。とくに、金融機関の支店長や職員に対して実施したアンケート調査の結果を踏まえて、人材育成や人材評価のあり方について提言しています。
本書の副題にある「コントリビューション?バンキング」は、共著者である伊東氏の造語です。その内容は本書第2章で詳述されていますが、従来から進められてきたリレーションシップバンキングが個々の取引先への支援という視点での取り組みであったのに対して、それをさらに拡張?深化させて、地元マーケットないし地元経済全体を対象に「貢献?参画」していく取り組みを包含しています。金融庁『平成27年事務年度 金融行政方針』には、地域金融機関に対して「地域の経済?産業を支えていくことが求められる」と明記されており、私たちが提唱するコントリビューション?バンキングは突拍子もない要請ではないはずです。「地域の経済?産業を支えていく」点を強調する新語として、コントリビューション?バンキングを使っていると理解してください。
地域にとって不可欠の存在でなければ、地域金融機関の明日はなく、地域金融機関自身が変わっていく必要があります。こうした危機意識は、筆者がお会いする地域金融機関のトップは皆お持ちですが、いつまでたっても変われていません。金融機関の職員に対するインセンティブの与え方が不適切であるために、経営陣が目指したいと思っている方向に組織が動かないのではないかという仮説を検証するために、独自にアンケート調査を実施しました。第6章でまとめているように、多くの地域金融機関で、過去の「預金重視」や「貸出金重視」といったボリューム重視の時代の人事評価から脱却できておらず、地方創生や地域密着型金融の推進とは矛盾するような従来型の人事評価がまだ主流のままになっていることを見いだしました。コントリビューション?バンキングを推進したい金融機関の経営トップへの良い知らせは、地方創生を推進するような方向に人事評価を変えることが、職員のやりがいを高めるとの結果が得られている点です。
もちろん、新しいことへの挑戦は、金融機関トップにとって大きなリスクをとることになりますが、コントリビューション?バンキングを推進することは、賭けてみる価値のある道だと私は考えています。
経済経営研究所?教授 家森信善