本書は学問としての高分子科学をまとめた教科書です。
内容はシンプルに「合成」「構造」「物性」の三本柱で構成し、これらを幹として高分子材料(機能性高分子)や生体高分子などの枝葉はある程度削ぎ落としました。一方で、高分子の発展において重要な鍵となる発見については、そこに至る背景や経緯を述べることに努めました。また、現在最先端で行われている高分子の研究についても、その基本概念や目的について触れることを重視しました。
「第1章 高分子—その発展の歴史と特徴」では、まず「高分子とは?」という基本的な問いに答えるために、巨大な分子であることによる独特の性質について述べ、次いで高分子の概念が確立されるまでの研究者たちの論争や研究者の粘り、直感の重要性などを紹介し、研究者としての心構えまでをも伝えることを試みました。
「第2章 高分子の分子形態」では、高分子の基礎知識にあたる一次および二次構造や、高分子において重要な分子量?分子量分布およびその測定法について解説しました。
「第3章 高分子の生成反応と高分子反応」では、基本的かつ重要な高分子の生成反応(重合反応)ならびに高分子反応について具体例を交えて詳述しました。
リビング重合による精密制御された構造をもつ高分子を設計?合成することの重要性に鑑み、「第4章 高分子の分子構造制御」にはかなりの頁を割きました。
「第5章 高分子の高次構造」で固体?非晶?溶液などの状態における高分子の構造について解説した後、「第6章 高分子の固体物性」でそれらの集合体としての高分子物質の普遍的な性質を述べ、高分子独特の固体物性へと展開しました。第6章の最後では、最近特に重要性を増している高分子表面?界面の性質についても解説しました。
全体を通して、高分子科学に自然と興味が持てるような、研究者になりたいと思えるようなつくりを心がけました。
高分子科学の概念が深くわかる1冊で、末永く使えることは間違いありません。高分子科学に関する最高の教科書と、自信をもってお薦めします。
工学研究科応用化学専攻?教授 西野 孝