本書は、この十数年に様々な媒体に発表した論文の中から「聖と俗」というテーマによって選び出し、いくつかの論文を書き下ろして加えたものである。中世以来、西洋美術は聖と俗をどのように表現してきたか、それが宗教改革によって分離?融合してバロック美術にどのように結実し、近代美術でどのように展開したかという問題は、2001年の『バロック美術の成立』(山川出版社) 以来、私の一貫したテーマであった。2003年の『カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン』(名古屋大学出版会) では、幻視と顕現のリアリズムをカラヴァッジョ芸術の特質として捉えようとした。
本書はより広く、カラヴァッジョを生み出した北イタリアの土壌や、カトリック改革や絶対王政の生み出したバロック美術、さらに現代美術や日本における聖像の展示と秘匿の問題、絵馬やエクス?ヴォート (奉納画) のような民衆的な画像や遺影など死の表象をめぐる論文を集めて構成したものである。
最後に書き下ろした「供養と奉納」という長い論文は、それ自体が追悼のエクス?ヴォート (トーテンターフェル) となっているということは、私の読者にはおわかりいただけるだろう。
必威体育研究科教授 宮下 規久朗