諸大名は年貢米を大坂の蔵屋敷に廻送し、これを堂島などの米市場で換金して、藩財政にあてた。
日本史の教科書にさらっと書かれているこの一文、多くの人がほおづえをつきながら聞いていたであろう、あるいは全く聞き逃していたであろうこの一文に、実はものすごく沢山のドラマが含まれていることを示したのが、拙著『大坂堂島米市場』である。
諸大名は年貢米の一俵一俵に農民の名前を書かせるぐらい品質管理を徹底し、それを大坂の蔵屋敷に運んだ。大名は、実際に運んだ米の量以上に証券を発行して資金調達を行い、藩財政にあてた。その証券を買い受けた商人達は、価格変動リスクに対処するためにデリバティブまで行うようになり、さらにそれらの価格は、手旗信号や鳩によって大坂から全国各地へと速やかに送信されていた。
教科書にこのように書いて欲しいのだが、それはかなわないので、拙著に思いを託してみた。お楽しみ頂ければ幸いである。
経済経営研究所 准教授 髙槻 泰郎