本書は、日本比較教育学会の研究委員会(2014学会年度~2016学会年度)が、大会時にラウンドテーブルでのアカデミック?スキルに関する報告を行ってきたものをまとめたものです。具体的には下記の通りです(敬称略)。
第51回大会(於宇都宮大学)
2015年6月12日(金)比較教育学研究におけるアカデミック?ライティングについて
報告者:近田政博、西村幹子、田中正弘 司会:山内乾史
第52回大会(於大阪大学)
2016年6月24日(金)比較教育学におけるアカデミック?プレゼンテーションを考える
報告者:乾美紀、米原あき、北村友人 司会:山内乾史
第53回大会(於東京大学)
2017年6月23日(金)比較教育学研究におけるリサーチ?スキル
報告者:原清治、中矢礼美、小川啓一 司会:山内乾史
日本比較教育学会のラウンドテーブルは、若手研究者を対象に開かれていますが、研究委員会の初の試みとして、「若手の研究支援」を目的として上記三回のラウンドテーブルを企画しました。
私は、2011学会年度~2013学会年度に紀要編集委員会の委員長と副委員長を経験しましたが、その際に、投稿されてきた論文について、形式審査で不採択になる論文が多いことに気づきました。形式審査とは、査読者が中身の審査に入る前に、書式、字数、註の附け方等の形式を審査するものです。なぜ形式審査で不採択になるものが多いのかを突き詰めると、二つの要因が浮かび上がります。
一方で、旧帝大、旧官立大を中心として、大学院の重点化、部局化が図られ、大学院生数が30年前の2倍~3倍あるいはそれ以上になったこと、そして教員に関しては研究、教育、管理運営に加えて、諸種の改革等の理由で多忙化が進み、結果として学生、院生の指導に十分手が回らないことです。
他方で、地方大学や小規模大学を中心に、周囲に教育学、社会学や国際関係論等の近い専門分野の院生がおらず、一人ぼっちで研究を進めている院生も増加していますが、そういった大学では、比較教育学とは距離のある分野の教員が多く、十分に行き届いた指導を受けられないことです。
全く逆の状況のように見えますが、共通するのは十分な指導を受けられない状況に、少なからぬ若い研究者の「卵たち」が置かれていることです。そういった「卵たち」を支援することを目的として、比較教育学の調査をするとき、口頭発表をするとき、学術論文を執筆するとき、それぞれ注意すべきことについてまとめたのが本書です。なお、巻末に、学会で近年大きな問題になっている研究倫理についての章を加えました。
本書の執筆者のうち、田中正弘、米原あき、北村友人、中矢礼美、澤野由紀子、武寛子、山内乾史の各会員は研究委員会の委員です(山内が委員長)。
また、近田政博、西村幹子、乾美紀、原清治、小川啓一の各会員は経験の豊かな中堅~ベテランの方々で、ラウンドテーブルでの報告と本書の執筆に加わっていただきました。
本書で述べられていることは基礎的なことが中心です。また全10章ですから扱い得たことも限られています。幸い、私の後任の研究委員長である森下稔会員(東京海洋大学)が、この「若手の研究支援」を引き継いでくださるとのことですので、続編を出版して、支援を充実してくださることと思います。
比較教育学ないしはその隣接領域で研究に励んでおられる若い方々が、より良い研究活動を展開されるうえで、本書が役立つのであれば、執筆者一同、これほどうれしいことはありません。
なお、本書の執筆にあたっては、東信堂の下田勝司社長のご理解とご支援を得ました。心より感謝申し上げます。
大学教育推進機構/大学院国際協力研究科?教授 山内乾史