本書の目的は、独立以降のインドの製薬産業の長期的発展の要因を分析することである。インドの製薬産業は、製造業において、高い国際競争力を有し、世界市場において最も成功している。インドは、1947年の独立から1991年の経済自由化まで、輸入代替工業化政策を中心に置く経済開発戦略を推進してきた。高率関税と数量制限による輸入規制、外資規制によって自国産業を保護育成し、輸入を国内生産に代替する輸入代替工業化政策の推進は、一般的には非効率、技術移転の遅れ、そして国産技術の陳腐化をもたらし、結果的にインド経済を停滞させたと考えられているが、インドは製薬産業の輸入代替に成功し、その後製薬産業は、比較劣位から比較優位へと移行し、国際競争力を有する輸出産業として世界市場で台頭した。
本書は、インド独立以降、高い国際競争力を持つに至った製薬産業の発展の要因を、制度的側面、企業発展の側面、そしてイノヴェーションの側面から史的に捉える。加えて、インドと米国や日本と関係のも俯瞰しインド製薬産業の躍進の過程を明らかにする。そして、インドの課題として、医薬品アクセスと産業発展の両立の問題についても検討している。
経済経営研究所 学術研究員 上池あつ子