大規模災害が発生すると、最も大きな被害を受けるのが中小企業です。特に事前の準備が不十分だとその被害は非常に大きくなります。そこで、政府は、中小企業の事業継続力の強化の観点から、中小企業に事業継続計画(BCP)の作成を促す取り組みを実施してきました。2019年5月には中小企業強靱化法が制定されました。注目したいのは、同法では、損害保険会社だけではなく金融機関にも中小企業のBCP策定を支援する努力が要請されている点です。
こうした問題意識を背景にして、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)のもとに設置された2つの研究プロジェクト、すなわち、①「人口減少下における地域経済の安定的発展の研究」プロジェクト(プロジェクトリーダー:浜口伸明、担当メンバー:野田健太郎、家森信善)および、②「地域経済と地域連携の核としての地域金融機関の役割」プロジェクト(プロジェクトリーダー:家森信善、担当メンバー:小川 光、柳原光芳、播磨谷浩三、津布久将史、尾﨑泰文、相澤朋子、海野晋悟、浅井義裕、浜口伸明、橋本理博)は、2つのユニークなアンケート調査を実施しました。
第一に、「人口減少下における地域経済の安定的発展の研究」プロジェクトは2018年10月に「事業継続計画(BCP)に関する企業意識調査」を実施しました。大企業を含む企業を対象にして、企業におけるBCPおよびリスクファイナンスのとらえ方、BCP導入を遅らせる企業固有の要因、情報開示の促進等の制度的取り組みの効果、地域金融機関や地域の産業支援機関との関係を含む地域要因を調査しました。
第二に、「地域経済と地域連携の核としての地域金融機関の役割」プロジェクトは2019年5月に地域金融機関の支店長に対して「自然災害に対する中小企業の備えと地域金融機関による支援についての調査」を実施しました。支援機関としての金融機関のBCP支援の取り組み状況、BCP面での支援姿勢と金融機関の事業性評価の取り組みとの関連性、さらに、近年の地域金融機関の人事評価や地域連携の状況などを調査しました。
本書では、この二つの調査の結果に基づいて、地域企業の経営持続力を高め、地域経済の強靱化を実現していくための課題を分析し、政策的提言を行っています。中小企業の経営強靱化に取り組んでおられる皆さんの参考になるものと確信しています。
香港中文大學出版社 書籍紹介より