本書は、インドの金融システムの中核を形成する銀行部門に焦点を当て、商業銀行を通じた金融発展の経済成長と貧困削減に対する効果について、歴史的な経緯や政策の変遷を踏まえるとともに、データを用いた実証分析に基づき解明することを目的としている。
インドは現在、南アジアの経済大国から世界の経済大国への歩みを進めている。2003年からの10年間でインドの経済規模は倍増し、購買力平価で測った実質GDPは2008年以降、アメリカと中国に次ぐ世界第3位の規模にまで拡大している。その一方、インドは世界最大の最貧層を抱える貧困大国でもある。世界銀行の貧困線基準は世界全体の最貧層約10億人のうち、3割がインド1国に集中していることを示している。
本書の特徴は、このように近年顕著な経済成長を達成しながらも依然として多くの貧困層を抱えるインドにおいて、銀行部門を通じた金融発展が持続的な経済成長と貧困層の生活水準の向上に対して、これまでどのような役割を担ってきたか、そして今後どのような役割を担い得るかについて分析を行っていることにある。特に、本書では、金融発展について銀行部門の規模拡大を示す「金融深化」と銀行サービスへのアクセスや利便性の改善を示す「金融包摂」という2つの観点から捉え、銀行部門を通じた金融深化と金融包摂が経済成長と貧困削減に対してそれぞれどのような影響を及ぼしているかを明らかにしている。さらに、インドの銀行部門を所有形態に応じて複数のグループに分類し、各グループの特徴を反映させることで、より現実に即した分析を試みている。
インドの商業銀行は政府所有の公共部門銀行と民間主体の私有部門銀行に大きく分けられる。公共部門銀行は銀行全体の預金額?貸付額?資産額の7割を占め、経済成長を促進する金融仲介機能において中心的な役割を果たしてきた。また、公共部門銀行は都市部以外の遠隔地での支店開設や農業?小規模工業などへの貸付拡大においても政府の意向に沿ってきた。しかし、近年、世界的金融危機とその後の国内景気の後退以降、インドの商業銀行は一様に健全性を悪化させており、特に公共部門銀行は不良債権の大幅な増加に直面している。
本書では、インドの公共部門銀行が経済成長と貧困削減のために金融深化と金融包摂を一層進めていく上での課題を指摘するとともに、公共部門以外の銀行グループがそれぞれの強みと特性を生かして互いに補完し合いながらインドの金融発展を進展させつつある現状について明らかにしている。
香港中文大學出版社 書籍紹介より