世界の秩序はどのような仕組み(制度)で、どのような過程を経て、誰(行為主体)によって動かされているのだろうか? 本書は、この問いを検討すべく、複眼的な視点で最新の学術的成果を整理したグローバル?ガバナンス論の解説書である。
主権国家を至上主体とするウェストファリア体制の揺らぎが指摘されて久しいが、今日では関与主体の多様化はもちろん、争点領域の多様化?複合化とガバナンスの多層化が進展し、開発、人権、保健、環境、資源など様々な分野で、権威が多元化したグローバル?ガバナンス?システムが出現している。本書は、多主体性、多争点性、多層性、多中心性を特徴とする現代グローバル?ガバナンスを、国際関係論の理論と実例から概説する。
現代の世界秩序は一元的な階層体制ではなく、多様な制度と行為主体によって彩られる政治過程である。基本的な制度は国際法を基盤として構築されるが、拘束力の無いルールや非公式なルール、暗黙の了解なども見逃せない役割を果たしている。また、国際レジームと呼ばれる国家間の管理システムが作られることもあれば、レジームなしの運用が行われる場合もあるし、企業や市民社会によって主導されるレジームもある。それらの制度を形成?運用する過程には、主権国家だけでなく、国際機構、企業や経済団体、市民社会、科学者なども主要な行為主体として関わる。他方で、国際政治の基本特性である主権国家間の権力をめぐる角逐も、ガバナンス過程で大きな影響を持っている。
グローバル?ガバナンスは、公式の制度で謡われているような中立性や公正性とは程遠い側面も併せ持ち、国民の目に見えないところで非公式に政策決定されている場面も少なくない。かといって、全てが不正な支配体制ということでもない。本書は、ニュースなどでは見えにくいグローバルなシステムを、誰が?何を?どのように動かしているのかに着目して、国際制度論ベースの理論と事例の両面から概観している。特定の国や機関や個人を一方的に非難するのではなく、多元性を活かす創造的な解決策を模索するツールとして、本書を活用していただければ望外の幸いである。
国際協力研究科 准教授 西谷 真規子