対人恐怖傾向と自己愛傾向は、ともに我が国の青年に広く認められる心の悩みや行動傾向として、これまでにも多くの研究がなされてきました。対人恐怖傾向は、従来日本独自の精神疾患として青年心理学、臨床心理学、人格心理学の分野で早くから注目されてきたものです。また、自己愛傾向は、欧米圏の精神医学領域において自己愛性人格障害の研究が着目されるにつれ、我が国でも注目されるようになってきました。ただし、いずれもが別々に研究されるにとどまり、両者を関連付けて研究がなされたことはこれまでほとんどありません。しかしながら、対人恐怖傾向と自己愛傾向は、青年にとって羞恥心と尊大さが表裏一体の関係にあるように、ともに互いの背景で機能して青年期特有の矛盾葛藤を反映しています。本書は、以上のような観点に立って青年期の対人恐怖傾向と自己愛傾向の心理を解明するものです。本研究の成果は、青年期の心理的発達の解明に広く寄与するものであり、また、同時期に広く認められる心の悩みとしての対人恐怖傾向、ならびに自己愛傾向の低減や改善に役立つことが期待されます。
人間発達環境学研究科 相澤直樹 准教授