本書は、英語による科学論文執筆のガイドブックであるが、類書と異なるのは、副題として「新しいスタンダード」と掲げているように、「書き手の個性や主体性を読み手に伝える」という新しい視点に立っている点である。著者が指摘するように「論文では客観的事実のみを書く」や「一人称の使用や曖昧な表現は避ける」などが標準とされてきた。しかし、近年では書き手の個性や主体性を明示的に示すことが推奨されていることを国際誌の投稿ガイドラインや掲載された論文の計量的分析によって示している。
全体は、準備編、基本編、発展篇の3部で構成されており、準備編では、科学論文から主観性が排除されてきた歴史的背景、主観表現の方法を数多くの事例をもとに解説している。基本編では、科学論文のストーリー?テリングという観点から論文の流れを作る「Move」という概念を導入し、情報展開の流れについて解説する。発展篇では、さらに「書き手の個性や主体性を読み手に伝える」文章表現法を具体的な豊富な事例を用いで丁寧に解説している。
本書の各説にはKey Questionが立てられ、多くのExerciseを解答することで理解が深まるように構成されている。定型表現の用例も非常に多く、英語論文を執筆するときに参考になり有益である。
国際コミュニケーションセンター 教授 保田幸子
目次
- 第1部 準備編 「主観的な文章はダメ」という通説の縛りから逃れる
- 第1章 科学論文とは何か
- 第2章 「客観的に書く」という通説はどのようにして生まれたのか 17世紀のRoyal Societyで推奨された文章から現代の科学論文まで
- 第3章 「客観的な文章」から「主体性のある文章」へのパラダイムシフト
- 第2部 基本編 読み手を導き読み手を引き付ける論文の流れ(ストーリー)を作る
- 第1章 科学論文の構成 「ストーリー?テリングとしての科学論文(Science Writing as Story Telling)」という考え方
- 第2章 それぞれのセクションでどのように読み手を導くか 科学論文のIMRaDとMove
- 第3章 Introduction でどのように読み手を導くか
- 第4章 Methods でどのように読み手を導くか
- 第5章 Results でどのように読み手を導くか
- 第6章 Discussion でどのように読み手を導くか
- 第7章 Abstract でどのように読み手を導くか
- 第3部 発展編 読み手を導き読み手を引き付ける文章を書く
- 第1章 「科学論文には事実のみを記載する」という通説の誤解 命題に対する書き手の態度を示す
- 第2章 「中立的に書く」という通説の誤解 Boosters(強調表現)の重要性
- 第3章 「曖昧さはタブー」という通説の誤解 Hedges(緩衝表現)の重要性
- 第4章 「I やWe の使用は禁止」という通説の誤解 書き手の主体性を示す時と示さない時を使い分ける