世界初の先物取引市場とされる、江戸時代の堂島米市場。先例のない市場がどのように機能し発展したか、市場経済の本質をも明らかにした『大坂堂島米市場』の英訳書。
2018年に講談社現代新書のレーベルから刊行した拙著『大坂堂島米市場』が、内閣府事業の一環で実施している「令和3年度対日理解の促進に資する書籍の翻訳出版事業」に選出され、この度、英訳版が電子書籍でリリースされた。
最初にこのお話を頂いた時は、既に書いたものを英訳する、しかも翻訳は4名から成る翻訳チームが実施する、ということだったので、簡単そうに思えた。しかし、実際に手元に届いた英文翻訳原稿は、自分の意図が反映されていない箇所が散見され、その確認や修正に思いのほか手間どった。
しかし、それは翻訳者の責任ではなく、私の責任であった。「100人いれば、100人がそう読むであろう書き方」が、日本語の段階でできていなかったのだ。読者(当初は日本人を想定していた)の背景知識や、読者による善意の深読みを期待した書き方をしてしまっていたからこそ、翻訳チームは戸惑ったのである(彼女/彼達の名誉のために言っておくと、翻訳チームの日本語能力と文章読解力は相 当程度に高かった)。
研究成果を国際的に発信することが強く求められているなか、今回の翻訳事業を通じて、「ユニバーサルなモノの書き方」を学んだことは貴重な経験となった。拙著が、広く海外の方々に読まれることは大変にありがたいことであり、今からどのようなフィードバックがあるのか楽しみである。
日本の歴史、特に経済の歴史を英語で書く必要がある学生?教員にも便利な書となっているはずなので、ぜひご覧頂きたい。
経済経営研究所 准教授 髙槻 泰郎