本書は日本学術振興会 (JSPS) とブラジル高等教育支援?評価機関 (CAPES) の二国間協力事業として実施された共同研究「変革に向けた未来志向の日本ブラジル関係の構築に向けて (Partnership for a Change: Structuring Brazil-Japan Cooperation)」(2019年4月~2022年3月) の成果の一部である。ブラジル側の実施機関はブラジリア大学国際関係学部であり、浜口伸明 (神戸大学) が日本側代表を務めた。
日本とブラジルの関係は1960年代から1970年代にかけて、高度経済成長を支える天然資源を必要とする日本と、資源豊富国としての潜在的なポテンシャルを開花させるべく覇権を求めない投資を必要としていたブラジルという明確な経済補完性に基づいて発展した。このような補完性がすでに意味を持たなくなっている現在、両国は民主主義、自由、法による支配、米中双方と良好な関係を維持したいという、共通の価値を共有し関係を再構築しようとしている。
本書はこの新たな二国間関係を、生産性、地球環境、グローバルヘルス、移民、第三国開発協力等の複眼的な観点から分析している。人口減少時代に突入した日本は外国からの移民に扉を開こうとしているが、1990年の入国管理法改正により多数の日系ブラジル人労働者が来日した経験は多くの教訓を与え、多文化共生社会に向かうための課題を呈示している。一方ブラジルは格差社会の是正という難題に直面しており、労働の質を改善しなければならないという課題を抱えている。
本書は日本とブラジルはそれぞれの課題を解決してゆくために、二国間協力が有益であると論じている。また、日本とブラジルが温暖化ガス排出削減、熱帯感染症対策、健康なコミュニティづくり、貧困削減に資する質の高いインフラ建設などの、グローバルな課題解決に貢献するために協調した行動をとることが両国の国際的地位を向上させることに資するという観点も提供している。
経済経営研究所 教授 浜口伸明
本書の電子版はオープンアクセスであり、出版社サイト (SpringerLink) から無料でダウンロードすることができる。印刷版はハードカバーとソフトカバーで販売されている。