「同族経営」という言葉に、みなさんはどんなイメージを抱きますか。創業者一族が株も経営権も独占、世襲が当然視され、無能な後継者のせいで内紛でも起きれば「お家騒動」と、ネガティブな印象が拭えないかもしれません。
では「老舗」、とりわけ「京の老舗」はどうでしょう。ノーベル賞作家の川端康成や喜劇王チャップリンも愛した柊屋【ひいらぎや】旅館、ミシュランガイドで三つ星に輝く茶懐石の瓢亭【ひょうてい】といったビッグネーム、あるいはペットボトルの本格緑茶で有名な製茶企業?福寿園、斬新な香りを独自ブランドで展開する香メーカー?松栄堂のような個性派。その名はいずれもポジティブな響きをもって聞こえるのではないでしょうか。
でも、これら京都を舞台に長年にわたり事業を営んできた老舗の大半が、同族経営のファミリー企業なのです。同族経営は、かつては経済合理性を欠いた前近代的な形態と見られがちでしたが、深く調べてみると「長期的視点が持てる」「決断が迅速」といったメリットも多数持ち合わせています。
本書は、京都の地で同族経営の強みをいかんなく発揮し、時代に即した試みで100年の時を超えて「襷【たすき】」をつないできた「長寿ファミリー企業」に着目したものです。その秘訣を探るため、西陣織や仏壇仏具などの伝統的分野から、電子部品や産業機械、航空機部品といった近代産業にわたる多彩な事例を取り上げています。
長寿ファミリー企業は創業以来、どのような革新を起こしてきたのか。未知への挑戦を重ねる気骨は世代を超えて継承されるのか。京都という地がその興亡にどのような影響を及ぼしているのか。さまざまな角度から検証しています。
実は日本の企業のほとんどは中小零細であり、同族経営です。少子高齢化で事業承継の難しさが増す一方、外部環境は大きく変化し、新しい領域に乗り出す必要性も高まっています。京都の長寿ファミリー企業とそれを育んできた地域の叡智が、中小企業経営や産業振興に携わる全国の方々にヒントを提供できることを願っています。
新評論 書籍紹介より
私は第三章の『京都の長寿企業の特徴とオスカー認定制度および認定企業の概要』を担当しています。企業データを用いて、老舗企業の特徴について明らかにしています。
経営学研究科 准教授