近年、船舶運航の分野では自動航行や自律運航のシステム開発が注目されており、様々な業種、機関において研究開発が進められています。その際に重要となるのは、この数十年の間に急速な進歩を遂げている「情報通信技術」すなわちコンピューターと情報ネットワークを中心とした技術でしょう。
電波を利用した通信技術の1つの応用として、船舶運航に用いられる電波利用の計器、機器が発達してきました。具体的には、無線通信機(電信や電話)、レーダー、地上波利用の電波測位システム、衛星航法システム、AIS などがあげられます。このうち、レーダーについては1950年頃、航海用として実用化され、ほどなくARPA(Automatic Radar Plotting Aids、衝突予防援助装置。現在ではTT:Target Tracking と呼ばれる)の機能が付加され、現在でも船橋における操船業務のなかで重要な要素となっています。また、自動化船の実現においても周囲障害物等の検知に利用することが想定されます。もう1 つ、現在の船舶運航において重要なものとしてGPSに代表される衛星航法システムがあげられるでしょう。当初、米国によるGPSが1990年頃以降に実用化され、ロシア(当時のソ連)や欧州、中国などでもそれぞれ独自に衛星測位システムの開発が進められて、現在ではいくつかのシステムが利用可能となっています。
ECDIS(Electronic Chart Display and Information System、電子海図情報表示システム)はナビゲーション システムとして船橋における従来の操船の形態を画期的に変化させましたが、その実現において自船の測位に衛星航法システムは不可欠となっています。
本書は、「詳説 航海計器(成山堂書店)」を再構成するかたちで、衛星航法とレーダーやAIS に絞って、実務の観点から、より平易に説明することを心がけてまとめました。他の航海計器や機器については、「詳説 航海計器(成山堂書店)」で説明していますので、そちらも参照してください。また、電波計器の基礎となる電気電子通信工学については「舶用電気?情報基礎論(成山堂書店)」で説明しています。必要に応じて参考にしてください。
海事科学研究科 教授 若林伸和