今年の環境報告書では、学長が目指されている「国際的に卓越した研究教育拠点として国際社会に貢献」することを踏まえ、環境に関する教育・研究と地域連携の内容の情報公開が一層拡充されたことが特徴であり、評価できます。また、報告書全体については、神戸大学の環境憲章、環境保全のための組織体制、重要な環境パフォーマンス、環境活動等の的確な要約が記載されており、実績と課題について重要と思われる情報が適切に記載されていることも評価できるものです。
環境意識の高い人材の育成と支援について
神戸大学の環境憲章にあるように「大学の最大の使命は人材の育成」にあります。この人材には、学生だけでなく、教職員を含む大学の構成員全員が含まれます。神戸大学で、排水・廃液の処理方法、ゴミの分別、省エネ推進などに関する小冊子を配布し、ポスターを掲示するなどの啓発活動がなされていることは、地道ではありますが、環境マインドの育成のために非常に大切なことであると思います。
大学生は良い意味で非常に柔軟で、新しい考え方を受け入れ、純粋に物事に取り組むことができます。若いときに身につけた考え方は、将来にわたって彼・彼女らの行動指針となることから、教育的効果は大きいものがあります。神戸大学では学生の環境サークルやボランティア活動が活発になされており、これらの地域連携活動は、社会をつくるという自覚をもち、倫理的で自律的に行動する学生を育むと期待されます。
また、「学問の府」である大学で働く教職員には、品格ある行動が求められます。高い環境意識をもち、教職員の家庭や地域での行動が良い影響の輪を広げていくことができるように、そして学生が教職員の姿勢からも学ぶことで、プラスのスパイラルが生まれることを期待します。
地球環境を維持し創造するための研究の促進について
環境報告書では、環境に関する先進的な研究の内容が紹介されていることで、研究教育拠点としての具体的な取り組みを知ることができます。各先生方の真摯な研究姿勢も報告書から伺い知ることができます。これらの研究成果や先生方の研究姿勢そして研究に取り組む熱意は、少なからず学生の意識に影響を与え、学生の環境活動の原動力となっていると推察されます。
願わくは、これらの研究に肌で接した学生の意識の変化や、貴重な研究成果を広く地域・社会に還元するための取り組みがもっと見えてくれば、と思います。
環境保全活動の推進について
環境報告書では、神戸大学でなされている環境活動、重要な環境パフォーマンス目標と実績が適切に示されています。電力使用量と温室効果ガス排出量に関しては、若干増加していますが、増加原因の究明と今後の対応策が明記されているところは評価できるものです。実績が改善したものについても、改善理由やさらなる課題が明確にされており、次年度以降のパフォーマンスにさらに期待がもてます。
また、土壌汚染などの検査が自主的に実施されていることも評価すべき点です。今後は、大学活動が潜在的に環境に与える影響による環境リスクを評価するためのリスクアセスメントのしくみを確立することも必要になるでしょう。そのために、教員や大学院生の研究成果などを積極的に活用することもできると思います。課題が可視化されれば、さらなる取り組みをもたらす引き金となるでしょう。
一方で、環境マネジメント活動を継続的に推進し、レベルアップさせるためには、長期的な目標からバックキャスティングしていくことが大事ですが、中長期目標が環境報告書では示されていないために、次のステップが見えにくくなっています。環境方針を、具体的な目標にどう落とし込むか、その場合、教職員や学生にわかりやすい目標設定となっているか、環境方針や目標が教職員や学生にどのように伝えられているかも大切です。大学は、ともすると、官僚的組織となりマネジメントが複雑になりがちです。大学経営層、学生、教職員のすべてがどの段階でどのように関わればよいのか、自分たちに何ができるかをわかりやすくすること、シンプルな環境マネジメントのしくみを整えて参加を促すことが重要になるでしょう。
さらに、活動が一定のレベルに達した後、そこからさらにどう進展させるかという時には、これまでとは違った工夫が必要になってくるでしょう。例えば設備の改修などを検討する場合に、コスト増が意思決定の妨げとならないように、適切なコスト・ベネフィット分析も必要になってくるでしょう。
「学問の府」としての神戸大学への期待
国立大学に環境報告書の作成が義務づけられたことは、社会から大学への期待の大きさを表しているともいえます。知の先端を担う神戸大学として、環境への取り組みについても、社会をリードしていくという意識で取り組んでもらえたなら、環境配慮型組織の新しいコンセプトを問いかけ実践してもらえたなら、地域や他大学・企業など社会全体に一層プラスの影響を与えられると思うのです。神戸大学で行われている最先端の研究を活かしてベストプラクティスの実践につなげること、環境への取り組みを通して大学の創造的破壊に取り組まれることを望みます。日本、そして世界が待ったなしで取り組まなければならない環境問題の解決に向けて、世界最高水準の研究教育拠点である神戸大学に期待される役割は大きく、そして重いものであると思います。
氏 名 | 阪 智香 (さか ちか) |
現 職 | 関西学院大学商学部准教授 |
プロフィール | 関西学院大学大学院商学研究科修了。 商学博士。現在は、日本学術会議連携会員、大阪府環境審議会委員、日本社会関連会計学会監事、ディスクロージャー研究学会理事。著書に『環境会計論』(東京経済情報出版)などがある。 |