今、我々の住んでいる世界は、さまざまな地球規模の課題に直面しています。地球温暖化などによる環境問題はもとより、資源、エネルギー、食糧などの国際的な獲得競争が激化し、世界経済や政治をも不安定にさせています。このような複雑で激変する世界を取り巻いている地球環境問題の改善は、一国だけではできず、世界各国が協力して取り組まなければならないグローバルな課題です。
本学では、これらの課題を取り上げ、積極的に解決していくため、個々の研究はもちろん、学際融合による研究や教育を通じて、グローバル社会において活躍できる人材の育成に力を注いでいます。
世界最高水準の研究
近年、注目を集めている本学の環境研究には、バイオマス資源を原料として燃料、化成品、プラスチックなどを作り出す統合バイオリファイナリー研究プロジェクトや汚泥分離膜による浄水処理、二酸化炭素分離膜によるCO2処理により水不足?水質汚染の解決や省エネ型二酸化炭素回収?貯留(CCS)※1の実現などを目指す先端膜工学研究プロジェクトなどがあり、2011年にポートアイランドに設置した統合研究拠点でその研究が行われています。
特に先端膜工学研究は、世界最先端であり、東日本大震災?福島原発事故で問題となっている放射性物質の処理にも寄与できることから、先端膜工学研究拠点施設を建設し、さらに研究を促進する計画です。
これからもキラリと光る世界最高水準の研究大学を目指し、最先端の研究や学際融合の研究を進め、地球規模の環境改善のための技術やシステムの開発を行っていきます。
グローバル教育
地球環境問題の解決には、非常に幅広い知識と視野が必要です。本学では、複数の研究科の連携によるグローバル教育のプログラムや海外の大学と協定を締結して学生を海外に派遣させるプログラムなどがあります。本学の学生には、これらの教育プログラムや「環境学入門」※2、「ESD」※3等を通じて、地球環境問題を視野に入れつつ、グローバルな知識を身に付けていただきたいと思っています。
ひとりひとりの力
昨年度は、環境レポーティングWGの取り組みである「環境報告書を読む会」に参加した学生が、「神戸大学環境学生調査隊」を結成し、本学の環境マネジメントを推進する環境?施設マネジメント委員会の公認団体となりました。今年度から、この学生団体を本学のWGへメンバーとして参画させ、教員、職員、学生が一体となって取り組める組織体制を確立し、活動を開始しました。環境問題の解決や環境保全活動は、大学構成員ひとりひとりの力が必要です。大学として、研究、教育、大学生活において、これらに努力する構成員の皆さんに対して、インセンティブを与え、サポートする仕組みを考えていきます。特に大学構成員の大半である学生の皆さんには、このような機会を通じて、学内にとどまらず、グローバル社会で活躍されることを期待しています。
- CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は、火力発電所(主に石炭火力発電所)や工場などで発生する温室効果ガス(主にCO2)を、大気に放出する前に分離?回収して貯蔵する技術
- 環境学入門は、学生に環境学に関心を持ってもらうこと、環境学の領域の深さを実感してもらうことを目的に環境管理センターが開講している全学共通授業科目教養原論
- ESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)は、環境問題を前提とした持続可能な開発のための教育をテーマとして7学部(発達科学部、文学部、経済学部、農学部、国際文化学部、工学部、医学部)が合同で実施
学生と学長の環境対談
福田秀樹神戸大学長に、環境保全活動に関する思いを伺うため、神戸大学環境学生調査隊の今橋陵さん、大平健治さん、福田雄介さんの3名が平成25年8月5日に学長室でインタビューを行いました。
- ( 今橋 )
- 今日は、神戸大学の環境保全活動に関して、私たち学生が知りたいことや、学長が大学構成員の大半を占める学生に対して伝えたいと思われていることなどをお聞きしたいので、よろしくお願いします。
- ( 大平 )
- 神戸大学の環境憲章に掲げられている基本方針は、3つあり、大きく、教育、研究、保全活動に分かれていますが、それぞれ、どのような取り組みに力を入れられていますか。
- ( 福田学長 )
- 環境に関する学問分野は、非常に幅広いです。神戸大学は総合大学ですから、教育や研究では、文系や理系に関係なく、環境についてベースとなる知識を学生に持ってもらう教育を行うとともに、それぞれを融合させた文理融合型の研究に力を入れています。
環境学入門やESDは、環境報告書で何度か紹介しているとおり、複数の学部を対象としたベースとなる環境教育です。
ポートアイランドにできた統合研究拠点はご存じでしょうか。文系、理系の複数の研究プロジェクトが入り、個々の研究を発展させるとともに、新しい文理融合型の研究を促進するために設置しました。
大学ができる環境保全活動として、ごみ箱の統一や省エネ機器の更新などを行っていますが、やはり構成員ひとりひとりの力が必要だと思います。
インタビュー風景 左から 福田さん、大平さん、今橋さん、福田学長
- ( 福田 )
- CO2排出量削減について、15%の目標を掲げていますが、達成に向けた取り組みを教えてください。
- ( 福田学長 )
-
計画的に設備機器類を省エネタイプへ更新することなどで、エネルギー使用量とCO2排出量を削減するように進めていましたが、東日本大震災、福島原発事故を受けて、電力会社の原発稼働状況が大きく変わったことから、電気のCO2換算係数が変動し、非常に達成が困難な状況になっています。
インタビューに答える福田学長
原子力を止めて火力等の化石燃料に頼る発電が増えると、CO2をより多く排出することとなります。太陽光や風力発電なども期待されていますが、今すぐに原子力や火力発電に代わるだけの発電量は確保できていません。
科学技術の発展とそれに伴うエネルギーは必要ですので、これからは、CO2を出さない技術や、排出したCO2をキャッチして処理する技術などを開発することが、科学技術者の責任ではないかと思います。
神戸大学として、引き続き省エネ機器への更新や意識啓発によるエネルギー削減を行いながら、新しい科学技術の開発を行うことで将来的にもっと大きな効果を生み出せるようにしたいと思います。
- ( 今橋 )
- 2013年5月24日に、神戸大学は神戸市と連携協定を結ばれたそうですが、神戸市が環境モデル都市として指定されていることから、環境について連携し、様々な問題を解決していくことは可能でしょうか。
- ( 福田学長 )
- 地域振興、科学技術、防災など多岐にわたる内容について、具体的テーマを出し合って連携協定を締結しました。その中で、水処理に用いる膜工学に関する事業があり、より品質の高い水を供給することや下水処理の省エネ?省スペース?省コストの実現も可能だと考えています。
この先端膜工学研究は、世界最先端の研究で、原発事故で問題となっている放射性物質の処理やCO2処理によって地球温暖化対策にも寄与できることから、非常に注目を浴びています。
大学としては、このような地球環境問題を解決できる技術やシステムの開発をさらに促進していきたいと考えています。
- ( 大平 )
- 大学における最大の構成員は、学生です。私たち学生に環境保全活動を行わせるための動機付けとして取り組まれていることはありますか。また、学生は、どのような役割を担うことができるでしょうか。
- ( 福田学長 )
- 近年では、学生に興味を持ってもらい、参画できる場を作るため、環境レポーティングWGで「環境報告書を読む会」を開催するなど、工夫しています。
昨年度は、この「環境報告書を読む会」に参加した学生が、インタビューをしに来られて、皆さんが所属されている「神戸大学環境学生調査隊」を結成されましたね。今年度からは、環境?施設マネジメント委員会の公認団体として関連WGにも参画してもらっています。
学生の皆さんには、まず調査を行ってほしいと思います。学内外のさまざまな教育、研究、取り組みについて、現場を見て、知ってもらい、その報告、提案を大学にしてほしいのです。その活動から、問題を発見する能力も身に付きますので、教育の一環と思って取り組んでほしいです。
- ( 福田 )
- 教育について、学生にインセンティブを与え、環境に興味を持ってもらうために、環境に関する授業を増やしたり、資格認定を行う形をとれば、より一層学生も興味を持つのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
- ( 福田学長 )
- 環境教育を増やすなら、専門教育よりも共通教育の分野かと思います。資格認定については、他大学の例をもう少し詳しく調べてみましょう。教育のカリキュラムを変更する必要があるので、どれだけ学生にインセンティブを与えられるのか等を見定めながら検討してみます。
- ( 今橋 )
- 先ほど、問題を発見する能力のお話がありましたが、それらを解決するために、環境保全活動に関するアイデアのプレゼン大会を開催してはどうでしょうか。さらに、出されたアイデアの実施について、大学側から支援をしていただくことができれば、自ら環境を改善できるという意識が生まれてくるのではないかと思います。
- ( 福田学長 )
- おもしろい着眼だと思います。身近なことで気付かないものも多いと思いますので、実施できるアイデアも出てくるでしょう。できれば、学生にたくさん集まってもらい、意識を広げるため、プレゼン大会は、学生主体で開催してほしいと思います。もちろん大学側はサポートします。
- ( 大平 )
- 学生へのインセンティブを与える方法として、環境キャラバンで行っている空調の設定温度や照明の消し忘れチェックを点数化して見える化し、環境に優しい学部には無料で使えるコピー機を置いてあげるなどの取り組みを実施してはどうかと思います。見える化と競争を同時に促す仕組みとしてどうでしょうか。
- ( 福田学長 )
- 全学を対象とする場合、調査には、かなりの時間と労力がかかると思います。また、見える化をする場合、公表方法などの詳しいやり方は検討しないといけないですが、よい取り組みと思います。まずは、先ほどのプレゼン大会でそのアイデアを発表しても良いかもしれませんね。
- ( 今橋 )
- 最後に、神戸大学の学生に対して、メッセージをお願いいたします。
- ( 福田学長 )
- 環境問題の解決は、一つの学問分野ではできません。また、社会でも、文系だけ、理系だけの知識では通用しません。
学生の皆さんは、文系や理系に関係なく環境に関する教育を受けること、環境に関する最先端の文理融合型の研究や他の分野の研究の調査活動をすることで、環境課題に取り組む人材となって社会で活躍してほしいと思います。
- ( 今橋 )
- ありがとうございました。これでインタビューを終わります。
学生の参加者
大平 健治さん
( 経営学部3年 )
福田 雄介さん
( 経営学部3年 )
今橋 陵さん
( 経営学部3年 )