2014年末、世界全体の風力発電の導入量は3億7,000万kWに達しました。これは設備容量ベースで見て標準的な原子力タービン約370基分に相当します。そして最近では、陸上のみならず海の上で発電を行う洋上風力発電の開発も活発に進められています。海の上は風が強いので、例え開発コストが陸上よりも高くなったとしても、それに見合うだけの発電量が得られるからです。では、海上以外に他に風の強い所はないでしょうか?そう考えると思い当る所が1つあります。そう、空の高い所です。海岸線から沖に数km出ると風速は「数割」増しになりますが、上空に数kmも上がれば風速は「数倍」増しになります。この上空の強い風を捉えるという夢のようなチャレンジ-空中風力発電の開発-が世界的に始まりつつあります。
図1は米国のベンチャー企業 Altaeros Energies 社が開発した空中浮体式風力発電(Buoyant Airborne Turbine、BAT)です。ヘリウムガスを装填した浮体により風車を高度数百mの空中に静止させ、直径3.7mのタービンにより発電を行う設備です。BATは再生可能エネルギーによる発電所としての利用可能性だけでなく、送電網の無い僻地や災害時における電力確保という面でも今後の開発が期待されています。
こうした空中風力開発の中で、我々の研究室(海洋?気象研究室)では、実際に上空にどれほどの風力エネルギーがあるのかを調べています。
図2は、その一例として、気象庁メソ客観解析値を利用して、BATを上空に上げた場合に得られる発電量を推定したものです。図中の実際の値としては、発電量を設備利用率(=(実際の発電量)/(定格出力×1年間時間数))の形で表現しています。設備利用率の値は日本国内の既存の風力発電所の平均で10%台後半ですから、図中の高度3,000mに見られる80%近い値が如何に大きいかがわかります。
図3は、災害時における利用という観点から、実際に電力を得るのに最低どの程度風車を飛翔させる必要があるかを調べたものです。一般に小型風車は3m/s未満の風では発電しないので、この図は3m/s以上の風が吹いている最低高度の年平均値を示したものと言い換えることができます。図より、風車による発電可能な最低高度は内陸の盆地等を除いて概ね高度200mから500mであることがわかります。つまりこの程度の飛翔高度を想定した設備を備えておけば、災害時においても緊急的に電力が確保できることを意味します。将来、緊急発電用施設として地方自治体が空中発電機を常備する際にこうした解析が役立つことを願いつつ、今後も研究に励んでいきたいと思っています。
図2 高度3,000mにおける設備利用率(%)
図3 BATの稼働最低高度(m)