環境に関する教育研究とトピックス

環境に関する教育

身近な衣生活の中で環境を考える

人間発達環境学研究科 教授 神戸大学附属中等教育学校 校長 井上 真理

小?中?高等学校では、化学繊維の成り立ちや界面活性剤等については理科、文化的社会的な背景を伴ったジェンダー等を含む内容は社会科等で勉強します。家庭科では、衣生活分野において、それらを網羅して材料である繊維?糸?布の種類や機能等を学びます。担当科目の「衣環境論」、「アパレル設計論」、「家庭科教育論C?D」では、これらの知識を環境問題の視点で捉え、自分のこととして、サステイナブルな生活へのアクションに繋げることに重きを置いています。

世界の人口の増加と共に、繊維の生産量は増加しており、その割合は天然繊維の綿と合成繊維(ほぼポリエステル)とで二分しています。合成繊維の歴史は90年未満ですが、技術の粋を尽くして開発され、日本の経済成長の一翼も担ってきました。しかし、石油からつくられる合成繊維はマイクロプラスチック等につながり、問題視されています。一方、綿製品は、着用する人の健康に害を及ぼす心配はありませんが栽培時に用いられる農薬等の薬剤は農地を侵食し、そこで働いている労働者やその地域の住民への健康被害を起こしています。そのため、農薬を用いないオーガニックコットンの生産が注目されるようになりました。一般の農地で栽培される綿よりも手がかかり高価ですが、オーガニックコットンしか使用しないと宣言する企業も出てきています。

着心地の要素

授業では、合繊メーカーや天然繊維メーカー、アパレルメーカーの方をゲストスピーカーとしてお呼びしてお話をうかがい、簡単な実験を加えて繊維に関する知識を備えたうえで、「合成繊維vs天然繊維」や、材料の知識、社会的背景を踏まえた「制服の是非」等のディベートを行っています。

繊維を糸にして、布をつくる。さらに染色や加工を行って製造される繊維製品はさまざまな工程を経るうえ、アパレル産業における衣料廃棄の問題も伴って繊維業界の環境への負荷は、世界で二番目に大きいとも言われています。こうしたマイナス面を抱えながらも、繊維製品は世界の人類の衣生活を担っています。業界と生活者が一緒になって、サステイナブルな繊維製品の在り方を問い、実現していく必要があることを身近な衣生活の中で考え、アクションに代えてくれることを期待しています。

衣服はその人だけが持ち運ぶことのできる最も小さな環境です。私自身の研究は、クールビズ、ウォームビズ等の温熱特性も踏まえた衣服の着心地を材料の物理特性から客観的に評価することです。これらの研究内容についても、授業の中で主観評価と対比させながら学んでいます。

衣食住の中でも、衣は人間だけが行う営みであり、暮らしに彩りを与え、暮らしを豊かにするものです。自分自身の生活のエネルギーにもなり、さらに時代をつくるものでもあります。グローバルな視野に立ち、環境?社会?経済に繋がるものとして衣生活を捉えるよう、授業を作り上げたいと毎年奮闘しています。

吸水性実験
糸繰り実験
触感による繊維鑑別