英国で始まった産業革命以降、世界経済は飛躍的な発展を遂げ、社会はグローバル化し、豊かになった。一方で、この発展は、技術の革新とともに石炭をはじめとした化石資源や鉱物資源等を大量に消費し、大量の廃棄物を排出する社会を生み出した。その結果、我々は地球温暖化に伴う気候変動や海洋プラスチック問題などを始めとした様々な地球規模の環境課題を抱え、社会を支えている資源の持続可能性に関する課題にも直面している。これらの課題を克服し、持続的な社会を構築することが喫緊の課題であり、そのための目標がSDGsであり、カーボンニュートラルの実現やサーキュラーエコノミーへの移行であろう。大学には、高度な教育?研究機関として、これらの重要課題の克服に向けた研究開発、人材育成、社会貢献等が求められている。神戸大学では、2020年にSDGs推進室、2022年にカーボンニュートラル推進本部を設置するなど直面する社会課題に対してダイレクトに取り組む組織を設置しており、これらの課題解決への貢献に向けた強い意志を感じた。その姿勢は、学長および環境保全推進センター長メッセージにも強く表れている。
一方で、大学も一事業者であり、民間企業等と同様にエネルギー消費や二酸化炭素排出量の削減、廃棄物排出量の削減等環境負荷削減に関する社会的な責務を有する。教職員、学生をあわせると23,905人の神戸大学の環境負荷は大きい。一例をあげれば、神戸大学の2022年度のCO2排出量は30,177t-CO2である。この排出量は、人口約5万人の赤穂市の民生家庭部門排出量(6万t-CO2、2021年度)の1/2の規模であり、その排出量の大きさが実感できる。神戸大学の環境管理全般は環境保全推進センターが担っており、各学部?研究科等と連携しながら具体的な取り組みを進めているという認識である。事業者の責務として様々な環境負荷削減に取り組む必要があるが、その中には当然カーボンニュートラルの実現に直接つながる省エネ活動やCO2排出量削減も含まれる。カーボンニュートラル推進本部には、教育部門、研究?社会共創部門とともにキャンパス部門が設置されており、カーボンニュートラルに関する教育?研究をキャンパスのカーボンニュートラル実現にもつなげていく意思を感じるが、このキャンパス部門と環境保全推進センターを中心とした環境管理を具体的にどのように連携させ、教育研究機関の利点を生かした環境負荷削減とするのかについては、もう少し詳細な説明があるといいと感じた。広島大学を含めてほとんどの大学はSDGsやカーボンニュートラルへの貢献を打ち出していると思うが、人材育成、研究開発、社会貢献等の取り組みをどのようにして一事業者としての環境負荷削減に結び付けていくのかについては試行錯誤の段階であろう。カーボンニュートラル推進本部を設置した神戸大学が、今後どのように教育研究とキャンパスの環境負荷削減を連結して進めていくかについては大いに興味があり、今後に期待したい。