環境に関する教育
ESD と教育概念の拡大
人間発達環境学研究科教授末本誠
ESD ( Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育 ) は、持続可能な社会づくりに、その担い手の形成という観点からアプローチしようとします。その場合の教育として学校教育が重要な位置を占めることは自明であり、文部科学省は「持続発展教育」という用語に置き換えて学校への普及を図っています。これに対して神戸大学での取り組みは、主に学校外で展開する成人教育や社会教育、生涯学習としての ESD の普及を目指しています。今日、教育の場は学校に限られず企業や行政、NPO など幅広い領域に広がっています。「21世紀は成人教育の時代」であるという、ドミニセの指摘もあります。学生の進路を考えても、教師になって学校教育の世界に入る者は全体のごく一部です。ほとんどは学校以外の職場に入り、様々な業務に従事します。大学のESDで育てるべき人材は、こうした幅広い領域で活躍する SD の当事者です。
学校外の主に成人を対象にする教育 ( これも教育と呼ぶとすればですが ) が成り立つためには、子供や青年を対象にする場合と違った見方や方法が必要になります。近年、生涯学習、成人教育の領域が拡大し、国際的に職業や労働に結びついた成人の学びへの支援をどう進めるかに関心が集まっています。成人の学習に関する研究が進展し、省察的な学習論や自己教育論などの新しい教育論が提案されてきています。これらは従来のように、知識の伝達を軸にした教育の見方を脱して、学習者が自分の人生の意味を自ら発見、構築する過程を重視します。そこに立ち会う教育的なスタッフは教師のような指導者ではなく、支援者ないしは伴奏者と呼ばれる新しい指導者です。こうした教育観は、イリッチの『脱学校論』 ( 1970 ) やフレイレの『被抑圧者の教育学』 ( 1970 ) などによって先鞭をつけられた、前世紀の後半からはじまる教育の世界でのパラダイム転換の流れを受けたものです。
ESD の前提にあるのは現在の環境問題ですが、その内容は多様かつ複雑です。『地球憲章』 ( 2000 ) では、「貧困」「平和」「価値体系」「世界?地域的文脈での責任」「ガバナンスと民主主義」「正義」「人権」「健康」「ジェンダー?イクイティ」「文化的多様性」「都市と農村の開発」「生産と消費のあり方」「環境保護」「生物と景観の多様性に配慮した自然資源管理」など、幅広い問題があげられています。これは問題の複雑性を示すと同時に、多様なアプローチの可能性を示しています。現在は3学部での取り組みに留まっていますが、教育概念の広がりという近年の新しい動きやこうした環境問題の複雑さを考えれば、ESD は本来、大学全体で取り組むべき課題であるというべきです。現在3学部には ESD コースが設けられていますが、これを全学に広げることによって学生がそれぞれの主専門をもちながら、ESD を副専門として学ぶことができるような仕組みづくりが必要です。