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環境に関する教育研究

地域に根差し人に学ぶ実践塾
徳島編:漁村と山村から環境とまちづくりを考える
―徳島県日和佐町のウミガメと共生するまちづくりと上勝町の持続可能なまちづくり―

学生ボランティア支援室  学術推進研究員 林 大造

概要

山村?漁村の現状と課題を環境とまちづくりの視点から学び、都市部とそれ以外の地域との関係性を改めて考える機会を提供することで、学生自身の今後の生き方を見つめ直すきっかけとすることを目的とする。

徳島県日和佐町の伊座利地区は「未来を考える推進協議会」においてIターン受け入れの取り組みが実を結び若者定住化、人口増が実現している。また、徳島県上勝町は「葉っぱビジネス」をはじめとする先進的取り組みで有名である。こういった先進事例の現場担当者との直接的交流は学生に刺激を与えた。

内容

1日目は徳島県美波町日和佐地区のウミガメ博物館カレッタを見学し、研究員の方からウミガメの生態と環境保全、まちづくりの取り組みについてレクチャーしていただいた。その後、観光ボランティアガイドによる「のんびりウミガメコース」を散策し、ウミガメとの共生、環境保護と観光の両立について学んだ。

2日目は徳島県美波町伊座利地区の伊座利の未来を考える推進協議会の取り組みについて学んだ。同時に住民との交流を通して、住民ひとりひとりの目から見た地域の今と将来像についても学んだ。

3日目は徳島県上勝町の持続可能なまちづくりを学ぶため、その前提となるハード面について、フィールドワークを通じて自然資源を確認した。具体的には棚田の見学、かみかつ倶楽部の「千年の森の取り組み」についてレクチャーを受けた。

4日目は上勝式の34分別のゴミ捨てを体験した。上勝町の取り組みが体系的に分かる、上勝ツーリストの主催する視察に参加し、ごみの取り組みや葉っぱビジネス、木質バイオマスの取り組みの説明をしていただくことで、地域活性化につながるコンセプトやシステムづくりについて学んだ。

詳細

【美波町日和佐地区】

徳島県の南東部に位置する観光と漁業を中心とした地区である。美波町 ( 旧日和佐 ) の大浜海岸はアカウミガメの産卵地として1967年 ( 昭和47年 ) 8月16日国指定天然記念物「大浜海岸のウミガメおよびその産卵地」として認定された。日本ではいくつかの場所でウミガメが産卵しに来るが、国指定の場所は美波町と静岡県御前崎市の2ヵ所のみである。数ある海岸の中から、ここを選んで来てくれるカメを今まで以上に大事にし、共生しながらたくさんの人が訪れる観光地を目指してさまざまな取り組みが行われている。

【美波町伊座利地区】

徳島県の東部に位置する漁業を中心とした人口約120人の集落である。未来を考える推進協議会という住民全員を構成員としたまちづくり団体が、都市との交流を通じて学校と地域の灯火を守る活動をしている。この団体は伊座利のシンボルとして学校の存続を掲げ、児童?生徒やその保護者の転入を呼びかける「おいでよ海の学校へ」という交流促進イベントを住民手づくりで開催している。これは、伝統漁法やクルージング体験、磯遊びやカヌー体験などを通して伊座利を体と心で体感してもらう海の学校1日留学体験などを行うものである。こうした取り組みが実を結び、平成13年の高齢化率は38%だったのが、平成20年には26%と減少し、若者定住化、人口増が実現した。平成19年には住民全員がオーナーの「イザリcafé」をオープンした。人気メニューはその日朝獲れの魚の刺身定食や天ぷら定食。年間1万人ほどの来客があり、徳島の新たな観光スポットとなっている。

他にも伊座利漁協では地域資源である海草に着目して、加工品生産を行う「アラメ加工場」を開設し、新たな雇用機会の創出にも取り組んでいる。環境を守っていくため、定期的なクリーンアップや植樹活動も行っている。

【上勝町】

徳島県の中心に位置する、徳島県庁から車で50分、人口2000人の山村である。「葉っぱビジネス※1」「ゼロ?ウェイスト運動※2」「木質バイオマスの利用※3」「光ファイバーの全戸導入」など、地域活性化、環境、情報、さまざまな面で先進的な取り組みを行っており、国内外から注目されている。葉っぱビジネスによる地域再生を描いた映画の制作が決定し、2011年7月から撮影に入っている。日本の棚田百選に選ばれた樫原の棚田や、千年の森づくりをしている高丸山、カヌーも楽しめる美愁湖など、日本の原風景ともいえる豊かな自然に恵まれている。こうした自然資源に加えて、上勝の一番の魅力を「人」と位置づける。「葉っぱビジネス」で有名な元気な高齢者に加え、町の魅力に惚れ込んで県内外からIターン?Uターンで移住してくる若者も多い。

  • 美波町伊座利地区未来を考える推進協議会でのレクチャー
    美波町伊座利地区
    未来を考える推進協議会でのレクチャー
  • 上勝町でゼロ?ウェイスト運動についてのレクチャー
    上勝町でゼロ?ウェイスト運動
    についてのレクチャー
※1:葉っぱビジネス
昭和61年、当時 JA の営農指導員だった横石氏が4戸の農家に声をかけて始まり、現在では194戸の農家が330種以上の商材を供給、販売額2億7百万円 ( 平成21年度 ) を誇る地域活性化型農商工連携の地域ビジネスである。日本料理の季節感を演出する紅葉、南天、柿の葉など「つまもの」を「彩」という商品ブランドとして栽培し、出荷している。高齢の女性でもできる軽くて労力のかからない農産物であることが葉っぱを売る決め手となった。年収1000万を超える農家もいる。葉っぱビジネスを支えるのは PC ( ブロードバンド?ネットワーク ) で127戸の農家が、全国の市場情報を収集して自らマーケティングを行い、出荷する。PC では自分が町で何番目の売上を上げているかの順位等も分かるようになっており、こういったビジネスモデルのすべてが良い刺激になり、更なる発展へつながっている。
※2:ゼロ?ウェイスト運動
ゼロ?ウェイストとはごみゼロ ( 出てきた廃棄物をどう処理するかではなく、そもそもごみを出さないという考え方のこと。「焼却?埋め立て?何でもリサイクル」によって、資源の無駄づかいと有害物質による健康被害と水質汚染など、環境に悪影響を与えたことを反省し、社会の仕組み自体を変えていこうとするもの。上勝町ではごみ収集車が走っておらず、住民がゴミステーションにごみを持ち込み、自らの手で34分別を行っている。NPO ゼロ?ウェイストアカデミーは市からの委託を受けて、ゴミステーションの管理を行い、3R ( reduce , reuse , recycle ) を基本として、リユース推進拠点「くるくるショップ」、介護予防活動センターひまわり内のリメイクショップ「くるくる工房」を運営している。リメイクは高齢者の生き甲斐にもなっている。
※3:木質バイオマス利用
上勝町の約86%が山林であるが、林業については、外材の輸入等により木材価格は低迷し生業として成り立たない危機的状況となっていて、その利活用の方策を模索していた。平成15年の調査を経て、平成16年には上勝町月ヶ谷温泉交流施設に木質バイオマスチップボイラーが導入された。二酸化炭素排出抑制による地球温暖化防止?森林林業の活性化、雇用の創出等による地域経済の好循環を目指して取り組みが続いている。

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