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環境に関する教育研究

船底塗料による船舶の低炭素化に向けた研究

海事科学部 教授 矢野 吉治

航走中の船には摩擦抵抗、造波抵抗、形状 ( 渦 ) 抵抗や空気抵抗の他にうねりや風浪による衝撃などが作用し、船はこれらすべての抵抗と推進器が発生する推力とが釣り合った速力で航走する。これらの抵抗のうち、水の粘性に基づく船体の摩擦抵抗が高速域では全抵抗の40~50%を占めるといわれ、水との摩擦抵抗を低減することは船の燃料消費量を削減すると同時に、昨今、地球規模で喫緊の課題である温室効果ガスの排出削減につながる。

神戸大学大学院海事科学研究科附属練習船深江丸 <全長50m?449総トン> は1987年7月の進水以来、船体の水線下外板に自己研磨型船底防汚塗料 ( 以後、船底塗料という ) を塗装し、年1回の入渠工事において施工する。2008年1月の入渠からは①新開発の世界最高水準の低摩擦型 ②塗膜の溶出度を10%程度高めた改良従来型 ③従来型 の船底塗料を1年間隔で順次試験塗装し、以後は低摩擦型、実験用低摩擦発展型による船舶の省エネルギー化に向けた評価試験を展開する。評価には速力試験を採用し、図1に示す播磨灘西部の播磨灘航路第1号から第4号灯浮標間、航程16.0海里 ( 29.6km ) において一定条件の下に直線航走し、潮流を補正して通過実速力と通過に要した燃料消費量を推算する。

表1の上段は3塗料の年間平均速力と平均排水量 ( 船の重量 ) および平均燃料消費量を示す。平均排水量にはそれぞれ若干の差違があるものの、従来型に比べて2種類の新型船底塗料では平均速力がごくわずかに上回った。一定距離あたりの燃料消費量は速力の自乗に比例 ( 時間あたりは3乗に比例 ) し、排水量の3分の2乗に比例することから、新型船底塗料の年間平均速力を従来型の12.4ノットに、また、平均排水量を従来型の760.5トンと同一にした場合における新型船底塗料の年間平均燃料消費量を試算した。その結果、表の下段に示すとおり、速力および排水量を補正した従来型に対する新型船底塗料2種類の燃費改善率は、改良従来型で3.5%、低摩擦型では8.9%になった。

2003年9月の入渠工事において船底外板のサンドブラストを施工し、それまでの入渠工事の度に塗り重ねてきた防錆?防汚塗料を一掃したが、以来、8年が経過し、その後に塗り重ねた塗料の劣化による剥離などにより外板表面の塗膜粗度がかなり進行している。このような状況下での試算結果であることから、過去の塗膜を一掃した場合には新型塗料の低摩擦性によるさらなる燃費改善が期待できる。図2および3に船体整備のための入渠工事が完了した深江丸を写真で示す。

国際海運から排出される二酸化炭素の排出量は世界全体の約3%、ドイツ1国の排出量に相当するとの推計があり、既存船にも適用可能な船底塗料の分野から船舶の省エネルギー化と低炭素化に取り組んでいる。

  • 図1 速力試験の実施海域
    図1 速力試験の実施海域
  • 船底塗料 1年間の平均速力?平均排水量?平均燃料消費量
      比率 排水量 燃料消費量 比率
    ( ノット ) ( % ) ( トン ) ( リットル ) ( % )
    従来型船底塗料 12.4 100 760.5 242.1 100
    改良従来型船底塗料 12.5 101.0 752.0 236.4 97.7
    低摩擦型船底塗料 12.6 101.3 764.4 227.0 93.8
      速力と排水量を従来型と同一にした場合の燃料消費量
    従来型船底塗料 12.4 100 760.5 242.1 100
    改良従来型船底塗料 99.0 233.7 96.5
    低摩擦型船底塗料 98.7 220.5 91.1

    表1 3塗料の速力?排水量?燃料消費量
  • 図2 外板整備後の右舷船尾船底部
    図2 外板整備後の右舷船尾船底部
  • 図3 ドライドック注水 ( 船体浮上 ) 風景
    図3 ドライドック注水 ( 船体浮上 ) 風景

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