私が洋上風力発電に関心を持ち始めた2000年頃は、まだ「洋上での発電なんて夢物語だ」といった懐疑的な意見が圧倒的でした。しかし今日、欧州の北海やバルト海では競うように洋上風力発電所が建設され、米国や中国でも大規模な開発が計画される等、世界的に見ると洋上風力は再生可能エネルギーの最優等生になった感さえあります。日本においても福島原発事故をきっかけとして洋上風力発電への関心が高まり、2013年は着床式風車2ヵ所、浮体式風車2ヵ所の計4ヵ所で相次いで発電が開始され、日本にとっては洋上風力元年とも言える年となりました。
そうした洋上風力発電の大躍進の裏で、世界では次なる挑戦-空中風力発電の開発-が静かに始まっています。空中風力発電とは、上空の強い風を利用してバルーンやカイト等の飛行体により発電を行うものです。空中風力発電の一番のメリットは上空の強い風を利用できることです。風力エネルギーは風速の3乗に比例して大きくなるからです。既に欧米のベンチャー企業を中心に複数のアイデアが提案されており(図1)、今年度に入って神戸大学においても基礎的調査研究が始まりました。
図2は、神戸大学に最も近い気象庁のウィンドプロファイラ観測点である高松において年平均風力エネルギー密度(1/2×空気密度×風速の3乗)を調べたものです。高度が上がるにつれて風力エネルギー密度も増加していることがわかります。地上風車の一般的な高さである80mを基準にすると、上空400mにはその2.3倍、上空1,000mには6倍もの風力エネルギーが存在しています。また風は気まぐれで不安定だと言われますが、最近の数値気象シミュレーション技術(図3)を駆使して数時間先、数日先までの風速変動を予測することにより、将来的には他方式の発電による出力の補完や大容量の蓄電池による出力の平滑化などの可能性も視野に入ってきます。
我々は、ついつい従来の先入観に基づいて安易に「空中での発電なんて夢物語だ」と思ってしまいがちです。しかし十数年前の洋上風力発電と同様、空中風力発電もまだまだ開発が始まったばかりです。この先10年、20年でどんな展開が待ち受けているのか、研究者としての空想は広がります。
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図2 年平均風力エネルギー密度の高度変化
図3 数値気象モデルによる風のシミュレーション例