農学部における環境教育
農学研究科 准教授 滝川 浩郷
農学は、多くの方が認識しているように、「環境」と密接に関係する学問領域である。従って、講義を含めた教育?研究のすべてが何らかの形で環境との接点を持っており、誤解を恐れずに言うならば、環境と切り離して議論できる教育?研究は農学部には存在しない。しかしながら、環境に対する意識を高めることを明確な目的として開講された講義が存在し、また、それに類する施策が試みられていることも事実である。ここでは、その中からいくつかの事例を簡単に紹介させていただく。
「緑の保全」「食の倫理」
これらふたつの講義は、「 From Farm to Table 」 を旗印とし「食料」?「環境」?「健康生命」をキーワードとした教育?研究を展開する農学部において、農学部生に必須の倫理観を培う目的で導入された必修科目である。前者は種々の環境問題をピックアップし地球環境危機の現状を解説しつつ、持続可能な社会を構築するための倫理を学ぶためのものである。後者は、「環境」という視点は若干薄れるものの、食料は生命を維持するためのものであり、その生産も加工も人の命を護るものでなければならないという基本的倫理を講述している。なお、これらの講義は他学部生も含めて200名以上にも及ぶ受講生を受け入れている。
「環境管理センター出張講義」
筆者が所属する応用生命化学コースでは、コース名に組み込まれている「化学」の文字が示すように、化学に軸足を置いた教育?研究が展開されている。特筆すべき事実は、農学部全体の特定施設 ( 実験排水系流し台 ) の半数近くが当コースに帰属していることであろう。このような背景から当コースでは、2年後期の学生実験開始時に、本学環境管理センターに依頼して、主に実験廃液の取り扱いに関する出張講義をしていただいている。化学物質を取り扱う者としての義務?責任を正しく認識してもらうことが目的であるのは言うまでもなく、正確な知識と意識をもった化学者の育成が強く意図されている。
先述のように、農学部の教育?研究は「環境」とは無関係たりえない。従って環境にかかわる研究の枚挙に暇がないのは当然のことである。筆者の身近に限っても、環境負荷物質の生物分解、環境に負荷をかけない害虫防除、環境調和型植物保護剤の開発など、「環境」を強く意識した研究が多数展開されていることを申し添えたい。