法学部?法科大学院における環境法に関する教育
法学研究科 准教授 島村 健
環境保護のための法制度
わが国の高度成長の裏側には、多くの人々の生命を奪い、健康を著しく損なわせた産業公害があった。大気汚染や水質汚濁などの公害を防止する本格的な公害防止の法制度が整備されはじめたのは1970年代のことであった。環境保護のための法制度の進展は、その後、一時期、停滞するが、1990年代以降、地球環境保護の分野、廃棄物?リサイクル対策等の分野で、再び活発な立法活動が行われるようになった。
今日においても、人の生命?健康被害を規制する公害防止法制の重要性は揺るがない。しかし、今日、環境法という法分野は、典型7公害を規制する公害法のほか、廃棄物?リサイクル、化学物質規制、自然保護?生物多様性保護、都市?文化環境 ( 日照、景観、緑地、歴史的文化財保護等 ) 保全、地球環境保護等々、非常な広がりをもっている。法律の制定?改廃のテンポも非常に早い。とりわけ量的?質的に大きな進展がみられる分野としては、廃棄物?リサイクル分野、温暖化対策分野等を挙げることができよう。
法科大学院における環境法教育
法曹実務家を養成することを目的とする法科大学院においては、「環境法1」、「環境法2」、「リサーチ&ライティング ( R&W ) 環境法」という3科目 ( それぞれ2単位 ) が置かれている。環境法は、新司法試験の選択科目の1つとされている ( なお、国家試験の法律科目として環境法が選ばれているのは、日本だけのようである ) 。上記「環境法1」の授業では、上記のように多種多様な内容をもつ現行法をなるべく網羅的に解説している。「環境法2」では、公害被害、環境破壊があった場合に、裁判所による救済がどのようになされてきたか、あるいは、環境破壊の未然防止に司法制度はどの程度役に立ってきたかという点を検証する作業を行っている。R&W 環境法では、最近の環境問題等の事例をとりあげ、法的観点から事案を分析する能力、法律的文章を起案する能力を養うことを目的とした授業を演習形式で行っている。
法学部における環境法教育
学部段階では、「環境法」 ( 2単位 ) が置かれている。先に述べたように、急速な進展を遂げている今日の環境法の全体像を、2単位の授業で網羅的に扱うのは、なかなか難しい。法学部の学部生に、環境法の全体を概説することにもそれ相応の意義があると思われるが、それぞれの法制度についてはごく簡単に扱うことしかできない。そこで、私は、一つの試みとして、この授業では分野を限り、その代わりにその分野については詳しく取り上げるというやり方をとっている。2005年度は循環型社会形成のための法制度を14回かけて扱った。留学 ( 2006?2008 ) の後は、温暖化防止のための法制度を14回かけて扱っている。これらの授業においては、行政官、環境NPO、企業 ( 環境?CSR ) 担当者等をゲストスピーカーとして迎え入れている。この授業に対する学生の評価は分かれている。内容は必然的に専門的 ( 蛸壺的 ) になり、神は細部に宿るにしても学部では環境法の全体像を学びたい、という学生にとっては不満であろう。そのような不満は ( 教科書に書いてあるようなことを授業できるものか!という気分はあるが ) 理解できないものではなく、毎年シラバスを書く時期になると、これまでどおり一分野に特化した授業を行うか、それとも、概説的なものに変えるか、逡巡することを繰り返している。