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環境に関する教育研究

ハリタイヨウチュウ ( 原生動物 ) を用いた水環境モニタリングに関する研究

環境管理センター 助教 吉村 知里
理学研究科 准教授 洲崎 敏伸

水道水を供給する浄水場では、定期的に水質検査を行い、計測器を用いて連続的に水質を監視しています。しかし、最近起こった利根川水系でのホルムアルデヒド汚染などの突発的に混入する有害物質については実時間での把握は困難です。浄水場では安全な飲料水を供給するためにメダカや金魚などを用いた水質バイオモニタリングで水質の異変を監視しています。現在、全国には簡易水道を含めて約2万の浄水場があり、中規模以上の浄水場にはすでに水質バイオモニタリングの自動監視装置が導入されているところが多いですが、小規模浄水場や無人浄水場には設置されていません。現状のバイオモニタリングでは魚類を用いているため、異変が表れるまでに時間がかかり、給水を停止する対応が遅れてしまいます。浄水場を出た後の配水池や受水槽など我々の生活により身近なところにバイオモニタリングの設置は皆無です。しかし、汚染水の流入や水質テロを考えた場合、学校や公共施設、マンションなどの給水タンクなどにバイオモニタリングの設置は今後必要なものと考えます。

原生動物のハリタイヨウチュウ ( 図1 ) は丸い細胞から放射状に軸足を伸ばし、その軸足で餌を捉えたり、底面に付着したりして、きれいな池や湖に生息しています。ハリタイヨウチュウは、有害な物質にさらされると軸足を縮める性質があり、その性質に着目して水質の異変を検知するバイオモニタリング装置 ( 図2 ) を開発しています。この装置の中に、ハリタイヨウチュウの入ったカートリッジを取り付け、検査したい水をカートリッジ ( 図3 ) の中に流します。装置内のカメラでカートリッジの中のハリタイヨウチュウの細胞を撮影します。水質に異常がなければ、細胞数の変化はほとんどありませんが、有害物質が含まれていた場合は、細胞数が減少し異常を知らせる仕組みになっています。

ハリタイヨウチュウの有害物質に対する反応は、魚類より優れていることが分かっています。そして魚類の装置より小型で軽量、維持管理が容易になり、安価で持ち運びもできるものになります。また、この装置は水道水の異変検出のみでなく、化学工場や研究施設からの排水の有害性についても応用が可能です。ハリタイヨウチュウを用いた本装置が実用化され、より安全な水道水の利用と排水管理が身近にできる水環境の危機管理に貢献したいと考えています。

  • 図1 ハリタイヨウチュウ Raphidiophrys contractilis
    図1 ハリタイヨウチュウ Raphidiophrys contractilis

    ハリタイヨウチュウは汽水域に生息する原生動物で、細胞の大きさは30μmです。池や湖の底に軸足を伸ばして付着しています。ハリタイヨウチュウは重金属などの有害物質に対して忌避行動を示すことが分かっています。

  • 図2 モニタリング装置の写真と模式図
    図2 モニタリング装置の写真と模式図

    左の写真は、試作した装置とモニターです。モニターに映っているハリタイヨウチュウの細胞数が装置本体の左側に表示されます。右側の数字は、水温20度に温度制御していることを示しています。右の模式図は、本体内部の仕組みです。ポンプで水をカートリッジに流します。カートリッジの中のハリタイヨウチュウをカメラで撮影し、細胞数を内臓の CPU で画像処理して数えます。

  • 図3 ハリタイヨウチュウを入れるカートリッジの写真と模式図
    図3 ハリタイヨウチュウを入れるカートリッジの写真と模式図

    左の写真は、ハリタイヨウチュウを入れて用いるカートリッジです。スライドグラスとアクリル板を加工して作っています。右の模式図は、装置とカートリッジの仕組みです。カートリッジの中を水が流れます。飲料水に適した水が流れている場合、ハリタイヨウチュウはカートリッジの底面に付着したままです。付着している細胞を下からカメラで撮影し細胞数を計測します。

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