ドライクリーニング液を光分解して有用な化学物質をつくる
理学研究科 准教授 津田 明彦
テトラクロロエチレン(1)は、常温で液体状態であり、高い化学安定性を持つ汎用有機溶媒として用いられています。一般には、ドライクリーニング液として使用されており、世界中で大量に製造され、使用されています。しかしテトラクロロエチレンは、酸素の存在下、光分解して極めて猛毒なホスゲン(2)トリクロロアセチルクロリド(3)、そして塩素や一酸化炭素などを発生する環境汚染物質としても知られています。それらの化合物は猛毒である一方、有機合成における極めて有用なビルディングブロックあるいは反応剤でもあります。しかし、それらを有機合成反応やポリマー合成に利用した例はこれまで報告されていませんでした。私達の研究グループでは、閉じた反応系において、テトラクロロエチレンを酸化的光分解し、発生した分解生成物をそのまま即座に基質分子と反応させることによって、安全かつ高効率で様々な有機合成反応を行うことに成功しました。具体的には、主として紫外光を発する20 W 低圧水銀ランプを用いて、酸素雰囲気下で1を光分解し、発生したガス成分と液体成分をアミンやフェノール誘導体などと混合することによって、尿素や炭酸エステル、そしてエンジニアリングプラスチックであるポリカーボネートなどの有用化合物を合成しました。ここで開発した技術は、その他のクロロメタン類(クロロホルムなど)やブロモメタン類などにも応用でき、ハロゲン含有有機化合物の分子変換技術として大きな発展を遂げることが期待されます。
図1. テトラクロロエタン(1)の光分解生成物の有機合成への利用