土壌汚染に対するバイオレメディエーション法の開発
近年、土壌環境の保全がますます重要な課題として認識されつつあり、わが国においては2003年に土壌汚染対策法が施行されて以来、土壌汚染の調査が進み、基準値を上回る汚染物質を含有する土壌が見出されるようになっています。例えば、石油による土壌汚染は、工場やガソリンスタンドの移転や改修時にしばしば発見されています。また、農薬による土壌汚染は、農地においては農業従事者の努力によって防止されているものの、ゴルフ場や公園等では法令によって規制されていない物質による潜在的な汚染が懸念されています。さらに、工業化の進んだ国々では、酸性雨による土壌汚染も深刻化しつつあります。こうした汚染土壌を処理?修復する手法として、微生物の有する汚染物質分解能を利用するバイオレメディエーションが注目されています。こうした手法は、従来行われてきた掘削除去などの手法に比べ、低コスト、低環境負荷とされ、また、広い範囲の土壌汚染に対応する際にも好適であると考えられています。しかし、バイオレメディエーションは微生物の活性により汚染物質の分解を行うため、そうした微生物の流失により処理効率が著しく低下するといった問題点があります。
そこで著者は、神戸女学院大学人間科学部の塩見尚史教授と共同して、自己固定化型バイオレメディエーション法(Bioremediation by Self-Immobilization System, BSIS)と呼ぶ手法の開発を行ってきました。この方法では、微生物は微生物自身がもつ凝集性によって土壌表面付近に固定され、汚染物質の分解はこの固定された微生物によって行うか、あるいは汚染物質を分解できる他の微生物を共固定しても行うことができます。本研究では、はじめに強い凝集性を示す微生物を選抜し、そうした微生物の一種バチルス サブティリスのBSISへの適用性を検討しました。その結果、この微生物は凝集性をもたない大腸菌と比較すると、土壌中から流失しにくく、土壌表層付近に固定化されやすいことが確認されました。そこで、トリアジン系農薬の代謝中間体であるシアヌル酸を分解する酵素を恒常的に分泌するようにした遺伝子組換えバチルス サブティリスを作成し、これを用いてシアヌル酸を分解するBSISを試みました。その結果、この組換えバチルス サブティリスを用いたBSISでは、1mMのシアヌル酸を72時間でほぼ完全に分解できることが分かりました。さらに、酸性雨の中和を目的として、アンモニアを分泌する微生物を選抜し、これをバチルス サブティリスによって共固定してBSISを行ったところ、日本の平均的な年間降水量とほぼ等しい量のpH4.7の硫酸水溶液を供給しても、土壌透過水のpHを6.5以上に維持することができ、BSISによる酸性雨の中和が可能であることを示しました。
BSISはこれらの他の汚染物質に対しても適用可能であり、施工も容易であるといった利点があります。現在のところ、本手法は研究室内のモデル土壌系において試みていますが、今後、屋外土壌系における適用性の検討も進めてゆきたいと考えています。
自己固定化型バイオレメディエーション法の概略図