世界では、2015年の風力発電に続き、2017年には太陽光発電が原子力発電の設備容量を追い抜きました。発電量ベースで見るとまだまだ少ないですが、風力と太陽光を合わせればそれも5年以内には達成されそうな勢いです。風力や太陽光といった再生可能エネルギーの導入量がここまで加速的に伸びるとは、20年前には想像もできなかったことです。導入が進むことによりコストが下がり、更に導入が進むという好循環のサイクルに入っていると言えます。コストが下がってくると、それまで高コストで開発に二の足を踏んでいた発電方法にも勝機が出てきます。例えば、本項で述べる海の上の風力発電=洋上風力発電はその典型例です。風力エネルギーは風速の3乗に比例するので、風の強い海の上では高いコストに見合うだけの発電量が得られるのです。
ただし海の上だからと言って一様に強い風が吹いている訳ではありません。場所によって風の状況(風況)は大きく変わります。それ故、初期コストが数百億円にもなる洋上風力発電所を建設するには、まずは風が強い場所を適切に選ぶこと(適地選定)が決定的に重要になります。海面上100m近い高さの風を実測することは非常に難しいので、海上の風況を推定するには、通常、コンピュータによる数値シミュレーションを行います。そしてシミュレーションで計算された風の情報を解析し、地図上に整理することで「洋上風況マップ」が作られます。
適地選定に必要な情報は風況だけではありません。水深、海底地質、藻場、鳥類生息地等の自然環境情報や、港湾区域、航路、漁場、国立国定公園等の社会環境情報も重要になります。日本では、平成27年度から28年度にかけて全国の洋上風況マップを作成する国家事業が行われました。海事科学研究科は産学官連携の中で中心的な役割を担い、風のシミュレーション部分を担当しました。完成したマップは平成29年3月に一般公開され、今年3月には改訂版が発表されています(下図)。近年、日本でも洋上風力開発が本格化しつつありますが、このマップは全国の発電事業者や自治体が洋上風力発電所の適地選定や事業性評価を行うのに役立てられています。