環境に関する研究
アジアにおける循環型サプライチェーン構築の可能性
経営学研究科准教授島田智明
私が追究している研究の一つに、アジアにおける循環型サプライチェーン設立の可能性という課題がある。循環型サプライチェーンとは、従来のフォワードサプライチェーンと、それと物が逆流するリバースサプライチェーンを合わせたサプライチェーンのことである。フォワードサプライチェーンは、通常、単にサプライチェーンとだけ表現され、消費者に流れる新製品の供給連鎖のことを指す。それに対して、リバースサプライチェーンは、消費者が使用を終えた廃棄物の流れである。前者では、原材料を製造する川上から、製造業者、卸売業者を通して、消費者に商品を販売する川下に物が流れるのに対し、後者では、逆に川下から川上に物が流れるので、リバースサプライチェーンという言い方をしている。
さて、その循環型サプライチェーンが、日本国内だけでなく、廃棄物の越境を基本的に認めないバーゼル法などを乗り越え、現地政府を巻き込み、アジアという広い領域で構築できるかということを研究している。日本国内においては、資源有効利用促進法および家電リサイクル法の施行により、PCや家電を中心とした電気電子機器メーカが拡大製造者責任のもとでリサイクルを徹底し始めた。一方、アジアに関しては、リサイクル法を施行している国が限られており、全体的にはリサイクル活動がそれほど活発ではない。しかしながら、アジアのある工場で新製品が集約的に作られ、それがアジア各地に輸出されていくように、廃棄される電気電子機器も、各地域からアジアのあるリサイクル工場に集められて集約的に処理される方が効率的である場合が多々ある。そこで、日本の電気電子機器メーカがリーダーシップを発揮し、アジア各国の事情を考慮しながら、製品の生産から廃棄物の回収そして再資源化までを、国境を越えてどのように実践していくべきかいうことを追究している。
本研究の一環として、以前、タイ人留学生の案内の下、バンコク郊外のノンタブリー県にあるスワンゲーオ寺院、および、そこからタクシーで15分程度移動したところにあるごみ集積所を訪問したことがあり、そのときに撮った写真をここに掲載している。スワンゲーオ寺院は、仏教国タイで最も尊敬される高僧の一人パヨーム師がいるお寺で、寄進された不用品を修理して貧困者に分け与えたり安価で販売したりするリサイクル寺としても有名である。寺院だけでは全国から寄進された不用品を処理しきれず、それらのごみを買い取り、修理して販売するリサイクル店が寺院周辺にはたくさん存在する。また、タイではごみが本当のごみになるまでリサイクルされ続けるということを、タイ人留学生は日本人の私に証明したかったようで、百聞は一見に如かずということで、ごみ収集車がごみを廃棄する集積所に連れて行って頂いた。強烈な臭いの中、ごみ集積所に隣接した掘立小屋で生活し、生かせるごみを拾って生計を立てている人々を見ると、アジアで循環型サプライチェーンを設立することがどれほど複雑で困難かということを改めて認識させられた。