人間発達環境学研究科 准教授 清野 未恵子
野生動物は生態系の中でさまざまな役割を果たしています。そんな野生動物が人間の居住エリアに出没し、農作物被害や人身被害を引き起こす問題を「獣害」といいます。獣害による被害額は農作物被害だけでも年間158億円を超えるといわれています。そうした実態がメディア等で報道されることが増えてきたため、野生動物に対してネガティブな印象をもっている方も多いと思います。ですが、被害を適切に防ぐことができる技術が確立されていることはあまり知られていません。また、被害を適切に防除することは野生動物の本来の生活に戻ることを促します。そうした、野生動物を保全しながら被害を軽減するための地域一丸となった取り組みが今必要になっています。そこで、私たちはNPO法人里地里山問題研究所と協働し、主に兵庫県丹波篠山市で地域住民の方を対象とした研修会を実施してきました。そのうち、高校生が中心となった取り組みが「獣がい」対策実践塾です。獣害の「害」が平仮名になっているのは、確実な手法で「害」を軽減すると同時に「獣」である野生動物の存在を大切にする意味を込めているからです。また、その「獣がい」そのものを資源にして地域を継承することを「獣がい対策」と呼んでいます。「獣がい対策」実践塾(以下、実践塾)は、魅力ある地域を守るために、被害を受けている農家などの当事者だけでなく地域内外の多様な関係者が協力して、獣害対策をきっかけに地域が元気になる方法を学ぶ場です。2018年度から始まった実践塾には、毎年、丹波篠山市の高校生が参集し、神戸大学の学生も交え、獣がい対策としての新しいアプローチを創成してきました。例えば、野生動物が人々の居住エリアに誘引される要因となっている柿を、野生動物よりも先にかつ大量に収穫することが必要だとわかり、高校生たちが企画したのは、「ウーバーイーツ」の仕組みを応用した高校生による柿収穫アルバイト、旬の柿をジャムペーストに加工して通年利用できる資源にする、といったものでした。実際に作った柿ジャムペーストを通して、皆、柿の価値を見直しました。他にも、高校生が考えた獣がい対策ツアーといった、獣がいの実態があまり知られていない(特に若い世代)に高校生らが伝えることの意義を実感したものもありました。この実践塾は、毎月開催しており、今年で4年目を迎えました。地域の高校生たちと、野生動物について学び、共に暮らすための新たな方法を考える取り組みに、ぜひあなたも参加してみてください。https://satomon.jp/community/juugaipractice/