海事科学研究科 教授 段 智久
気候変動は、新たに大気へ負荷されるCO2濃度の増加と関係している。気候変動によってすでに南極大陸の湾内において、陸と海が接触する領域が閾値を超えて氷の融解が止まらなくなったのではないかと指摘されている(T. M. Lenton et al., Climate tipping points — too risky to bet against. Nature, 575, pp.592-595, 2019)。地下や海底から化石燃料を採掘して使用しなければ、大気へのCO2負荷は増加しないのだが、従来から発電所や輸送機の熱源として、化石燃料が使用されているのが現状である。脱炭素社会を実現するために、植物由来のバイオマス燃料の製造と使用は不可欠である。この場合、燃焼によって大気へ負荷されたCO2は、植物を育てることでゼロエミッションとみなすことができるからである。
本報告は、バイオエタノールをガソリン機関で使用することを目指し、その目標を達成するために、漁船などに使用される船外機に含酸素アルコール系合成燃料を使用した場合の排ガス中のCO2、未燃炭化水素及び中間生成物のアルデヒド類の濃度を測定し、機関性能と排ガス組成の相関について考察した。実験で使用したエチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)は、サトウキビなどに由来するバイオエタノールとイソブチレンから合成したバイオETBEもある。
ガソリンにアルコール系化合物を混合し作成した混合燃料の層流燃焼速度と当量比の関係を示す(図1)。いずれの混合燃料も、当量比1.1付近で層流燃焼速度が最大値を示し、エタノール>イソブタノール>ガソリン、エチルターシャリーブチルエーテルの順に燃焼速度が低下した。この結果は、いずれの混合燃料を使用しても、燃料過濃域で機関を運転することが機関の熱効率を最大にできることを示唆している。
燃焼時に生成するホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドは、いずれの燃料を使用しても生成された。燃焼ガス中のホルムアルデヒド濃度は、アセトアルデヒド濃度の概ね1.7倍と推定した。燃焼ガスを純水に通気して捕集する手法を用いたため、定性的に各燃料の違いによるホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの濃度比に大きな違いは無いと判断した。
2050年を目標とした脱炭素社会において、有用なエネルギー源を供給できるための燃料の開発が愁眉の急である。