環境に関する教育研究とトピックス

環境に関する保全活動

換気を控えることによる省エネルギー ~大学図書館の書庫の事例~

工学研究科 教授 高田 暁

換気することは良いことであると思われがちです。もちろん、室内空気に含まれる汚染物(におい、ウイルス、空中を舞うホコリなど)の濃度が高いとき、室内よりクリーンな屋外の空気と入れ換えることで、室内空気の質は良くなりますが、どのような場合も「換気=善」とは限りません。

ここでは、神戸大学附属図書館の協力を得て、ある書庫について調査を行った事例をご紹介します。書物の保存のため、この書庫では除湿機が用いられています。実測値を見ると、外気の湿度が書庫内より高い時間帯が多くなっています(図1)。大勢の人が出入りする空間では換気が重要ですが、書庫の場合、人の出入りが少なく、換気の必要性が高くありません。換気を行うと、せっかく除湿した空間に外気の水分を持ち込むことになり、むしろ逆効果となる場合が多いのです。今回調査を行った書庫の換気扇はOFFの状態でしたが、室内と屋外をつなぐ換気扇のダクト(管)を通じて、自然に外気が出入りしていることが分かりました。そこで、ダクトの出入り口をビニールシートで閉鎖し、書庫の換気量を減らすことが試みられました(写真1)。ダクトを閉鎖する前と後の書庫内の湿度は、ダクトを閉鎖したことで、低めの値で安定していることが分かります(図2)。一方、解析モデルによるシミュレーションを行ったところ、換気用ダクトの出入り口を閉鎖するだけで、6月から12月までの機械による除湿量が2割近く減るという結果が得られました。つまり、この書庫では、換気を控えることで、書物にカビの生えにくい環境が得られ、なおかつ、除湿機の消費電力量が減少して省エネルギーの効果があるということが示されました。

室内空気を衛生的に保ったり、適当な通風で涼を得たり、冬期の住宅内での結露を防止したりと、換気がプラスに働く場面は多いのですが、やみくもに換気をするのは愚かなことです。

目的を考えて、必要最小限の換気をすることが重要です。


参考:

図1 書庫室内と外気の湿度比較(実測値)
図2 換気口閉鎖の前後での湿度比較
(実測値、2018年秋と2019年秋の比較、
換気口は2019年6月に閉鎖)
写真1 換気口の閉鎖(換気扇はOFFであるが、外気の出入りが確認されたため、ビニールシートで閉鎖)