人間発達環境学研究科 教授 白杉 直子
人間活動は環境負荷を与えます。食生活も例外ではありません。食糧生産から流通、加工、消費、廃棄に至るまで、各段階で直接あるいは間接的に様々な環境負荷を発生させます。当研究室では「食環境学」の看板を掲げ、「食生活が生み出す環境問題」に主に水問題の観点から取り組んできました。過去には、台所排水の汚濁負荷削減に関する調査研究と実験研究を、新潟大学、福島大学、信州大学の先生方と共同で行いました。水問題以外でも、数年前から、ハンバーグや根菜類などの加熱調理時のエネルギー消費量やCO2排出量についての実験研究を食の安全の観点も加えて、本学工学研究科の大村直人教授の研究室と共同して行ってきました。
さらに、茶農家やメーカーのご協力のもと、十数年間取り組んできた茶園の窒素溶脱問題のテーマがあります。日本は、先進諸国の中でも農地への多施肥傾向が強いことから、肥料成分の一つである窒素が地下水の硝酸(NO3-)汚染を惹き起こしています。チャは土壌への窒素投入量が多いほど旨みや甘みを多く含む品質の良い茶葉を生産します。そのため、茶園では特に多施肥傾向になりがちです。一見、何の関係もなさそうな緑茶の味も環境問題に繋がっているのです。茶樹栽培を現代日本における肥料の過剰施用の典型例として着目しました。
環境問題の解決には、自然科学だけでなく、社会科学、人文科学からの学際的なアプローチも必要となります。人間発達科学研究科が人間の発達に主軸を置くことから、環境問題の解決方法をハードの技術だけに求めるのではなく、法規制などのソフトの技術や人々のライフスタイルにまで遡って探ることを特色のひとつとしてよいのではないかと考えました。そこで、施肥条件が明らかな茶の生産圃場で土壌溶液を採取し、硝酸などの無機態窒素やアルミニウムの定量分析を行い、土壌への窒素投入量の削減がそれらの濃度に与える影響を調べました。一方で、同圃場で収穫した茶葉の呈味成分含量を測定したり、抹茶加工菓子に調製して、おいしさなどの官能評価を行い、どの程度消費者に受け入れられるかを評価したりしました。というのも、茶園で肥料を大きく削減すると緑茶の味や品質はたちまち下級茶クラスに低下してしまうからです。減肥による「発生源抑制」実現のために、減肥緑茶の活路を抹茶加工食品への利用に見出そうとしました。つまり、人々の「消費行動」に問題解決の糸口を見出そうと考えたのです。茶樹栽培における環境と食文化のせめぎ合いを天秤にかけながらみていくことで、環境問題解決の糸口を探ろうとしています(図参照)。