工学研究科 応用化学専攻 教授 石田 謙司
2020年4月に資源エネルギー庁から報告された「統合エネルギー統計確報」1)によると、一次エネルギー国内供給のうち、化石エネルギーが約8割を占めています。しかしその化石エネルギー比率は5年連続で微減し、逆に再生エネルギーの比率が6年連続で増加しています。政府、企業そして国民の再生エネルギーへの意識は高まっているように感じられます。
一次エネルギーとは石油、石炭、天然ガス、水力、太陽光など、自然界から獲得された変換加工されていないエネルギーのことを意味します。この一次エネルギーは活用する段階で必ずエネルギーロスを発生します。例えば、「自動車が、ガソリンを燃やしてエンジンを回し、走行する」ことを考えてみましょう。ガソリンという「化学(物質)エネルギー」を、燃焼させて「熱エネルギー」に転換し、更に走行するための「機械エネルギー」に転換します。自動車のエンジン部が熱くなることからも容易に想像できるように、エネルギー転換を効率100%で行うことは難しく、一次エネルギーの1部は「熱」として環境中に排出されます(未利用熱)。例えば、日本では年間1兆kWhものエネルギーが未利用熱として捨てられており、その未利用熱のうち200℃未満の中?低温帯の廃熱が大半(75%程度)を占めている、との報告があります2)。
このように、環境中には、うすく広く、捨てられたエネルギー(例えば、光、振動、電磁波、熱など)が存在します。それら捨てられたエネルギーを収穫して電力変換し、利用しようとする技術は「環境発電(エナジーハーベスティング)」などと呼ばれ、再生エネルギーの1つとされます。環境発電は捨てられたエネルギーを有効利用するという観点から大きな意義がありますが、最近では次世代IoT、Society5.0を実現するために必要不可欠な要素技術としても注目され始めました。今後、億?兆個/年におよぶセンサー素子が人間生活の中に溶け込んでいくことが予想されており、これら膨大な数のセンサーの電源?配線をいかに確保するか、ということが問題視されています。「環境発電」は発電能力は小さいものの、電力を“地産地消”することができ、IoT用センサーを配線フリー、電池交換フリーに駆動できると考えられています。我々の取り組む熱電変換技術では、温度差を電力に変換します。物質に温度差(ΔT)を与えると、その温度差に比例した物質内に電位差(ΔV)が発生します。この現象は“ゼーベック効果”と呼ばれ、「ΔV = S?ΔT」なる関係式で表現されます。大きな電圧を獲得するために比例定数S(ゼーベック係数)を大きくする研究が、無機材料を中心として行われてきましたが、我々は軽量、柔軟、安全性などの特徴もあわせもつ有機材料(半導体型カーボンナノチューブや軌道縮退有機半導体など)による熱電変換素材の開発を行っています。将来、生活環境中でさりげなくエネルギー回収したり、人間やペットの体温で発電する時代がくると考えています。